厳戒態勢──その時あなたはどうやって大切な人とコミュニケーションするだろうか?眠らない街ニューヨークがゴーストタウンになってしまうなど,一体誰が予想しただろうか? しかし我々の想像を遙かに超えた危機的事態は,現実に多数発生している。果たしてそのとき,持ち歩いているモバイル機器は何らかの役に立つのだろうか?
人と人をつなぐのは声とモバイルガジェット?!ニューヨークとワシントンで11日朝(日本時間同夜)に発生した同時多発テロは,筆者にとっても,恐ろしくショッキングな出来事だった。黒煙が上がるビルに,さらなる飛行機が突入する映像をテレビで目撃したのは高速道路のサービスエリアだった。 筆者が米国在住時に所属した会社は金融系の会社であり,崩壊したWTC(ワールドトレードセンター:世界貿易センター)には関わりの深い企業が多数所在していたので現実感の伴う恐怖に襲われたのだった。 半ばパニック状態で,米国に住む何人かの友人にできることを考えた。初めに思いついたのが「話をすること」だった。安否を含め,話すことで大きな心の支えになると感じたのだ。 しかしここは旅先で,固定電話はない。いつも持ち歩いているWindows CE 2000対応のPDAを広げ,友人の電話番号を検索して,携帯電話で国際電話をかけることにした。 筆者の携帯電話はKDDIグループの「au」ブランドで,特に申し込みの必要なく,アクセスコード「005345」から始まる番号で国際電話が掛けられるようになっている。 米国本土への平日昼間の通話料は20秒33円で,3分通話した場合の通話料は297円。3人の友人に約3分ずつ電話をかけて,しめて約1000円。友人が無事なことと,ショックを受けている彼らに励ましの言葉をかけられたことを考えれば安いものだ。 もし携帯やPDAといったモバイルガジェットを持ち歩いていなかったら,このような迅速な対応はなし得なかっただろう。 知っておくべき!? 浅いモバイルの限界米国で携帯やPDAといったモバイルガジェットを持ち歩いていながら,未だに連絡がつかない友人がいる。不幸なことに,その友人の「M氏」は2度目の米国旅行中にこの事件に出会ってしまったのである。 「カリフォルニアを中心に観光する」と言っていたので,直接事件に巻き込まれた可能性はないと思われるが,英語がそれほど堪能ではない彼は戦争時のような厳戒態勢に直面し,多大な精神的ショックを受けているに違いない。 彼がレンタルしたとされる米国で使える携帯電話に電話をしても「電源が切れている」というメッセージが流れつながらない。彼のメールにメッセージを送っても,何の返答も返ってこない。 不安になり,PDAにCFカードタイプのPHSモデム「CardH"64Petit」を差し込み,Webページで彼が泊まっているホテルの電話番号を調べて,国際電話をかけてみると「すでに昨日出発した」とのこと。ここで使える手はなくなってしまった。もう連絡が来るのを待つか,ニュースで情報を得るしかない。 今回の事件についてCNNなどの報道を見ると,携帯電話が安否の確認につながったケースが多いようだ。ビルの下敷きになっていながら,携帯で連絡を取り合うことができたという話が印象的だった。 携帯がつながるか? たったこれだけのことが周辺の人々をつなぎ,人命を救うことにつながる。もし携帯電話の電池が切れていれば,それだけで命運を左右する。事の大きさを思い知らされる。 やはり「つながること」は大きかったのだ。 ハイテクとローテクの共存が大事災害時の通信手段としてのインターネットの可能性の高さは,かつて発生したいくつかの災害で証明されつつある。災害掲示板などの重要性は誰もが理解するところだ。 しかし現在,大きな災害が起こるとどうだろう? 災害掲示板は「実験活動」と称され複数設立されており,どこに書いておいたらいいのか分からないというのが現実だ。家族や友人と「どの掲示板に書くから」と約束しなければ容易には連絡すら取れないだろう。 そもそも本当の災害時に,充電式の携帯電話やPDAがどこまで役立つのかも疑問だ。電池切れのモバイルガジェットをどうやって充電するというのだろうか。今回,M氏も複数のモバイルガジェットを持っていながら連絡が取れなくなっている。 つながることは確かに大きく役立つことだ。しかし,つながらなかったとき,どうにもならない状況が生まれるのは避けなければならない。 緊急連絡先や集合場所を決めるといったローテクだって構わないはずだ。大切なのはハイテクを使うことではなく,人と人がつながることではないだろうか? [増田(Maskin)真樹,ITmedia] 連載バックナンバー Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
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