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 [第18回]

キー入力数を半減!? 疲れないケータイ日本語入力システム

携帯電話で日本語を入力するには12個のキーを何度も叩かねばならず,長い文章ともなると指に大きな負担がかかる。もっと楽に文字入力ができないかとインターネットを探していると,「Touch Me Key 10」という入力キー数を従来の半分にまで削減する入力システムに出会った。

【国内記事】 2001年8月30日更新

変換候補を予測する前に”かな入力”が面倒……

 数少ないキーしか持たない携帯電話では,より効率よく入力することが望まれる。すでにソニー製の「SO503i」などに搭載され,人気を得ている入力メソッド「POBox」では,ひらがなを入力している途中の時点で予測される変換候補をリスト表示し,そこから語句を選択することで入力数そのものを減らしている(6月7日の記事参照)。

 例えば「お」と入力すれば,「お」「思っ」「思い」「お願い」などの変換候補がリスト表示される。

 しかし携帯の場合,この“かな入力方式”が大きなネックになっている。例えば「明かり」なら4回のキー入力でいいが,「氷」だと12回キーを押さなくてはなら ないように,あ行やか行の最後に並ぶ母音「お」に掛かる言葉が多いと入力が増えてしまうのである。

 どの“かな”も関係なく,スムーズに入力できる仕組みはないのだろうか? そんな探求心からインターネットをさまよっていると,とても魅力的な日本語入力システムを見つけることができた。

子音を入力するだけで入力が4割減少する

 情報理工学系研究科・情報学環の武市・田中研究室で開発された「Touch Me Key 10」は,“子音を入力するだけ”という少ないキー入力回数で日本語を入力することができる。

 例えば「こおり」という言葉を入力するのは以下のような手順になる。

  1. まずキーの「2」を1回押す
  2. そして「1」を押す
  3. 最後に「9」を押す

 計3回のキー入力で,「こおり」が表示される。漢字に変換したい場合は,候補リストから「氷」を選択すれば完了だ。

 「子音を入力する」ということがよく分からないなら,携帯電話のダイヤルキーに数字と共にプリントされている“ひらがな”を見てほしい。

 「あ」「か」「さ」「た」「な」……

 携帯電話のダイヤルキー1つには,1つの「子音」が対応しており,Touch Me Key 10では,ア行,カ行,サ行……という行を構成する「あいうえお」,「かきくけこ」という文字の組み合わせから変換候補を予測しているのである。

 つまり先ほどの例の「こおり」を子音で表すと,「か行」→2,「あ行」→1,「ら行」→9となる。Touch Me Key 10でこのように入力した場合「こおり」以外にも,「かいろ」「かえる」「かおる」「けいり」といった言葉が入力の対象となり,その中から「こおり」を選択しているのである。

 ところで,なぜ「Touch Me Key」という名前が付いたかというと,漢字の「親」を分解して「立」→「Touch」,「見」→「Me」,「木」→「Key」としたとのこと。「親指だけで入力できる」というコンセプトがそのままシステムの名前になっているという。

Photo
Windows版のデモ画面。「893」と入力すると,「許し」「よろしく」「ゆるさ」「許せ」「許す」などの候補が表示される

的確な変換候補が表示される仕組み

 ところで,子音だけで変換候補を予測するTouch Me Key 10では,必然的に候補数が多くなってしまそうに思える。スムーズに入力できる代わりに,矢印キーをたくさん押すのでは本末転倒だが,研究室の田中久美子講師はこう話す。

 「Touch Me Key 10では,大量の日本語文書を統計処理にかけて候補表示の順を決めていて,通常の変換に劣ることなく候補を選択できる。自動入力実験を行ってみると,Touch Me Key 10 は従来の携帯電話入力と比べて,4割もの打鍵数を削減できることが分かった」

 さらにTouch Me Key 10はパーソナライズ機能を持つため,長く使うことでキー入力数を半減することができるという。たとえばプログラマーの携帯はプログラマーに適した表示順序になり,女子高生の携帯は女子高生風になるという具合だ。

 この特徴を活かして,TPOに併せて「メール作成用辞書」「レポート作成用」などのように辞書を切り替えれば,より快適に入力することもできる。

 気になる辞書のサイズだが,システムの携帯性を高めるための工夫の結果,基本辞書が9万語で860Kバイト。パーソナライズ用辞書が2万語で170Kバイトとなり,携帯電話にも搭載できそうだとのこと。

 Touch Me Key 10は今後,東京大学TLO(技術移転機関)の先端科学技術インキュベーションセンター(CASTI・東京都千代田区)を通じて,商業利用の話を進めている最中だ。今後の展開が気になるところだ。

[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

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関連リンク
▼ Me Key 10ホームページ
▼ 米国T9社(英語)

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