アイコン

ミームとしての
モバイル
コンピューティング

 [第8回]

「電子ペーパーをめぐる冒険」(1)

米MIT Media Labで開発された「電子ペーパー・電子インク」は,米E Ink社によって製品化の道を歩んできた。同社はついに米Lucent Technologiesと提携し製品化に踏み切ることに成功した。電子ペーパーの登場で“紙”の存在はなくなってしまうのだろうか?

【国内記事】 2001年5月31日更新

紙はなくなるのか?

 紙は情報媒体として無限の価値を持っている。“宝の地図”を血眼になって追い続ける冒険ドラマは多数あるし,驚くような高い価格で“本”が取り引きされることもある。貴重な情報を記録するメディアとして,これまでのところ紙以上のものは現れていない。

 また,PDFで有名なDTPソフト業界トップ,米AdobeのCEO Warnock氏は,「紙の印刷物は今後も情報伝達メディアとして存在し続けるだろう」といったことを主張している。

 しかしながら,5年ほど前から話題に上っている電子ペーパーが登場すれば,“紙”そのものの存続が危ぶまれる可能性がある。

 何度でも内容を書き換えられる電子ペーパーを使えば,無駄な紙の消費はなくなるし,印刷費もかからない。インターネットを使って最新の情報を瞬時に表示することもできる。

 出版業界にとっても,消費者にとっても悪いことがないなら,“紙”は本当になくなってしまうのではないだろうか? 今回を含め2回に渡り「電子ペーパー」と「電子インク」,そして「紙」について考えてみよう。

電子インクの大本命「E Ink」が試作品を公開

 電子インク開発でもっとも注目を浴びているのが,米E Inkの技術である。米マサチューセッツ州にある「MIT Media Lab」で開発された技術で,米Motorolaなどから出資を受け“E Ink”として起業した。

 同社はLCDなどで使われる“アクティブ・マトリクス方式”で駆動する12.1インチ型の電子ペーパーの試作機の開発に成功し,2001年6月1日から米カリフォルニア州サンノゼ市で開催される情報ディスプレイ協会取材のカンファレンス「Society for Information Display Conference」(SID)で,米IBMと共同で公開する予定だ。

Photo
紙の印刷物のように美しいE Inkの電子ペーパー

 E Inkの電子インクは,インクの中に数百万もの微小なマイクロカプセルが封じ込められている。各カプセルには色の濃いものと,薄いものがある。これが荷電に反応し色を付ける。

Photo
電子ペーパーに使われる「電子インク」

 製造過程も印刷に似ており,しかもローコストという魅力的な特徴を持つ。大きなサイズの電子ペーパーを作ることも可能と,製品化が期待されている。

電子ペーパーはプリント機能を持った紙

 ベンチャー企業であるE Inkを支えるのが,米Lucent Technologiesだ。

 1999年9月にE Inkと提携したLucent Technologiesは,同社のBell Labs(ベル研究所)からプラスチック・トランジスタ技術をライセンス供与している。E Inkの電子インクは,電荷を与えることで色を付ける。その色を付けるために必須なのがプラスチック・トランジスタなのである。

 フィルム1枚程度の薄いシートの上に印刷されるプラスチック・トランジスタは,電子インクの各ピクセルに対応するように小さなものが多数組み込まれる。1つのプラスチック・トランジスタが対応し,それらをオン・オフすることでマイクロカプセルを制御し色を付ける仕組みだ。

Photo
電子ペーパーを顕微鏡で拡大しているところ。微粒粒子レベルのインクが制御されているのが分かる

 電子ペーパーは,“電子インク”という技術を基礎に構成される。電子ペーパーは,電気泳動──つまり電圧を電圧を加えることにより,色の付いた粒子を動かし色を付ける技術を利用したディスプレイで,インクで紙に印刷したように見えることから電子ペーパーと呼ばれている。

情報ディスプレイとして

 E Inkの製品はこの発表以前の1999年5月3日,既に一般に公開されている。場所は米国の大手デパート「JCペニー」,電子インク技術を使った初の超薄型ディスプレイでデビューを飾っていたのだ。

Photo

 厚さは約3ミリ,大きさは約180×120センチと,いわゆる看板用パネル程度。10秒ごとに画像を更新,変更できる。カラー表示も可能となっている。

 6月に情報ディスプレイ協会取材のカンファレンス「SID」(Society for Information Display Conference)で発表するアクティブ・マトリックス方式の試作品では,この製品を携帯型電子機器用ディスプレイの実用化に向けたマイルストーンと位置づけている。

 E Inkの電子ペーパーは,紙に近い高コントラストを誇るだけでなく,低消費電力の面でも秀でている。そのメリットを生かして,PDAや携帯電話,電子書籍などの機器への応用からスタートする。

 しかし,たとえばソニーのPDA「CLIE」の最新バージョンでは一見紙のようなクオリティで文字を画面に表示できる。電子ペーパーはどのような市場を開拓するというのだろうか。

 次号ではそのほかの電子ペーパー,インク技術を元に紙の存続について考えたい。

[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

関連記事
▼ “紙面そのまま電子配達”は電子ペーパー時代のコンセプト
▼ 電子ペーパー実現間近──キヤノン,ペーパーライク・ディスプレイを展示
▼ “電子インク”で紙がディスプレイになる

関連リンク
▼ 米eInk社
▼ 米Lucent Technologies
▼ SOCIETY FOR INFORMATION DISPLAY-情報ディスプレイ協会
▼ 米マサチューセッツ工科大学 Media Lab

連載バックナンバー
▼ 第1回 携帯電話は小さなパソコンになるわけではない
▼ 第2回 IMT-2000はパーソナル放送の扉を開く?
▼ 第3回 モバイル普及と共に拡大する!? “情報盗難の脅威”
▼ 第4回 ノンウェアラブルモバイルスタイル?!
▼ 第5回 全てのモバイルガジェットに暗号機能を導入せよ!
▼ 第6回 携帯電話は“電話”? それとも“メール端末”?
▼ 第7回 Linuxが携帯電話に搭載される可能性は?
▼ 第8回 「電子ペーパーをめぐる冒険」(1)
▼ 第9回 「電子ペーパーをめぐる冒険」(2)
▼ 第10回 今年のモバイル機器には“Flash”が搭載される?
▼ 第11回 ピンポイントP2Pは世界を救うか?
▼ 第12回 モバイルにP2Pを!
▼ 第13回 今,モバイル機器にある危機?!(1)
▼ 第14回 今,モバイル機器にある危機?!(2)
▼ 第15回 携帯電話ロボットに未来はあるか!?
▼ 第16回 通話料を還元!うれしいクレジットカードのサービス
▼ 第17回 見通しのいい場所なのに“圏外”──携帯電波を妨害する装置は違法か?
▼ 第18回 キー入力数を半減!? 疲れないケータイ日本語入力システム
▼ 第19回 NASDAQ暴落!米ハイテク賃金が下がっても,日本の技術者に払われるサラリーの方が低い?!
▼ 第20回 厳戒態勢──その時あなたはどうやって大切な人とコミュニケーションするだろうか?

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!