ウェザーニュースタッチ 「空でつながる」コンセプトの真相(前編)(2/2 ページ)
多くのスマートフォンユーザーが頼りにしている気象情報アプリ「ウェザーニュースタッチ」。7月末に行われたリニューアルは、少なからずユーザーに驚きを与えたが、ウェザーニューズがこのアプリに大きく手を加えたのはなぜなのか。石橋知博氏と西祐一郎氏に話を聞いた。
育ててきたウェザーリポーターとスマートフォン化と震災の体験
ウェザーニューズはこれまで、2004年からの8年間をかけて、ケータイサイトの有料会員の中からウェザーリポーターを組織し、日常的に情報を投稿してくれるリポーターの数を30万人にまで育ててきた。しかしこの会員数や投稿数が伸びなくなってきて、悩みを抱えていたという。
投稿を有料会員に限ってきたのは、投稿される情報の質を担保するため。有料会員の方がより正確で分析に役立つ情報を投稿してくれるのではないか、という仮説で取り組んできた。コアなユーザーは、より専門的に「雲底高度」などを見ながらリポートを送ってくれるほどになった一方で、新たに使い始める人たちにとってはハードルが高い場になってしまい、コミュニティの成長が止まってしまっていた。
ここで、2つのインパクトがある。1つ目はケータイからスマートフォンへの移行が決定的なトレンドになっていること。使い方やビジネスなどのあらゆるモバイルのルールが変わろうとしている状況に直面し、ケータイからスマートフォンへ、スムーズなビジネスの転換を成功した事例がまだそろわない中で、ウェザーニューズは「誰もやったことがないチャレンジを行おう」という出発点に立った。
そのさなかに2つ目のインパクトである、2011年3月11日の東日本大震災が発生した。このとき、ウェザーニューズはこれまで有料会員に限っていた情報投稿を、一般のユーザーにも拡げ、全てのページに情報投稿を促すリンクを設置したという。その結果、2日で4万件のリポートが寄せられるという、これまでにない量の投稿を経験した。そして、これまでの「有料会員神話」を覆すように、誰もがケータイから目の前にある状況を克明にリポートしてくれる状況を目の当たりにした。
スマートフォン化のトレンドと震災の経験が、「こうあるべきなんじゃないか」という気づきに変わり、今回のリニューアルにつながったのだ。
100万人のウェザーリポーターと、実用的なソーシャルを作る
リニューアルしたアプリは、8年かかって30万人しか集まらなかったリポーターの数を、5日間で3倍以上の100万人にまで押し上げた。これまではコアユーザーが中心だったウェザーリポートは、コアなユーザーが20%ほどになり、残りの80%は初めて投稿する人たちになって、コミュニティの構成も完全に変化した。懸念していた情報の質も、テレビの画面など空以外を撮影して省かざるを得ない写真は1%以下で、99%は、日本の空を確実にとらえているという。
石橋氏はウェザーリポートによる天気予報作りについて、古くて新しいソーシャルの姿であると考えている。
「ウェザーニュースタッチはSNSを目指しているわけではなく、会話を楽しむソーシャルでもありません。投稿によってポイントを付与していますが、仮想のインセンティブを課したゲーミフィケーション、という単純なものでもありません。持っている情報を出し合って役立てる、より本質的なソーシャルであり、送る楽しみが理由を作ってくれる本質的なゲーミフィケーションがあると思います。もちろん、我々はリアルなインプットに対して、実用的でユーザーの生活に役立つリアルなアウトプットを返していくことに、努めなければなりません」(石橋氏)
石橋氏は、ウェザーニューズのモバイルサービスについて、第1章をウェザーリポーターを育むこれまでの8年間とし、今回のリニューアルによる投稿の無料開放を第2章の始まりと見ている。1億人のウェザーリポーターを作りたいという目標まで、これまでのペースだと200年かかる計算だったが、これを大きく前進させる今回の施策は、第2章の幕開けらしさすら感じる。
ウェザーニューズはこれまでの経験で、リポーターの多数のリポートが価値に変わることを知っている。例えば桜前線の実測や花粉、ゲリラ雷雨の予測などは、気象庁の発表を凌駕する情報を、リポーターの投稿で作ってきた。またこれまでのコアなリポーターも、自分が送った情報が天気予報を作っていることを知っている。
このエコシステムは、ビッグデータとその活用という読解をすることもできるが、ウェザーニューズはどのようにとらえているのだろう。このあたりの詳しい話は、後編で改めて紹介したい。
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