第6回 Google要らず、中国スマホで使われる国産Webサービス:山根康宏の中国携帯最新事情(2/2 ページ)
中国で販売されているAndroidスマートフォンにはGoogle系のサービスが搭載されていない。しかし中国の消費者は不自由なくスマートフォンを日々使いこなしている。では中国ではどのようなサービスが利用されているのだろうか?
マイクロブログサービス「微博」も人気
Googleが単なる検索だけではなく、今では多くのWebサービスを手がけているように、百度もさまざまなサービスを展開している。これに対して大手のポータル各社もサービス範囲を拡大している。特に中国4大ポータルサイトのSina(新浪網)、Tencent(騰訊網)、Sohu(搜狐網)、Wangyi(網易網)が強化しているのがマイクロブログサービスだ。中国語で「微博」と表記されるマイクロブログサービスは、TwitterとFacebook、そしてメッセンジャーを融合したようなもの。特に最初にサービスを開始したSinaのWeiboが爆発的な人気を得たことから、微博と言えばSina Weiboを指すこともある。日本でもサービスを始めたことは記憶に新しい。
これらマイクロブログサービスはFacebookやTwitterがそうであったように、スマートフォン向けのコミュニケーションツールとして非常に適しており、中国のスマートフォン利用者の拡大とともにユーザー数を大きく伸ばしている。Sina Weiboが4億人、Tencent Weiboが5億人。このように利用者数は数億単位と桁違いに多く、中国のスマートフォン利用者のほとんどが、必ずどちらかのサービスを使っているともいえる状況だ。
そしてフィーチャーフォンからPHSまであらゆる端末で利用できるチャットサービス「QQ」を古くから提供しているTencentが、マイクロブログサービスに続きサービスを開始したWeChat(微信)が、今急激にユーザー数を伸ばしている。WeChatはチャットや無料通話のサービスであり、LINEやカカオトークと同類のものだ。その勢いは2010年末のサービス開始から433日で1億ユーザーを獲得、その後半年で2億人、さらには4カ月後の2013年1月15日に3億ユーザー数を突破したほど。WeChatはマイクロブログよりも手軽に使えることもあり、ショートメッセージサービス(SMS)の代替としても使われ始めている。
このように国産のソーシャル系サービスが充実し、ユーザー数も多いことから、中国の消費者はGoogleサービスやFacebook、Twitterなどが利用できなくても不便を感じることは少ないと考えられる。もちろん海外の情報を入手する必要や生じたり、海外の知人との連絡に不自由さを感じることもあるだろう。一方で、逆に中国のWebサービスがアジアなど海外へ進出を進めており、同じ中国語圏である香港や台湾ではWeibo、WeiChatの利用者も多い。国内だけではなく海外でもシームレスにサービスが使えるようになれば、ますます海外Webサービスを利用する必要性は薄まっていくだろう。
地図サービスも国産に軍配が上がる
このほかにもショッピング、電子書籍や音楽配信、ゲーム、オンラインバンキングなど中国国内で利用されているWebサービスやアプリはさまざまなものがある。それらはまた機会を設けて紹介しようと思うが、スマートフォンで利用頻度の高いサービス・アプリの1つである地図について見てみよう。中国ではオンライン地図サービスの提供には免許が必要で、Googleも中国内から撤退したものの、中国の地図を海外からも提供するために免許を取得し、サービスを続けていた。
しかし2011年第2四半期にはモバイル地図サービスでシェア28%と強さを誇っていたGoogle マップも、2012年第3四半期には6位までランクを下げた。中国で現在最も利用されている地図アプリはAutoNavi(高徳地図)が25.9%で、それに次ぐのがBaidu Map(百度地図)の19.1%と、この2社で市場のほぼ半数を占めている(易観国際調べ)。特にAutoNaviは利用者のほとんどがAndroidユーザーだという。
地図サービスは地元の商店情報や公共交通機関の路線や時刻変更など細かい修正が常に必要だ。国産の地図サービスは情報量が豊富で新しく、筆者も中国訪問時はいつもAutoNaviを利用している。また単なる地図検索だけではなく、ホテルやレストラン、そして映画館の予約など大手ポータルと競合するようなサービスも利用できる。映画館はオンラインでチケットを購入、座席の指定もできるほどだ。ここまで決め細やかなサービスを提供できるのは、やはり国内企業だからだろう。
Googleや海外大手のWebサービスが利用できなくとも、中国の消費者は国産メーカーのスマートフォン上で国産サービスを使い、不自由なく生活している。今後スマートフォン利用者が増加し、都市部だけではなく地方や農村部にも広がっていけば、さらに新しいサービスが生まれてくるだろう。中国政府の検閲という壁は、国産サービスを充実させるという、当初の目的とは異なる方向にも働いているのである。
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