第1回 加入者数8億5000万、「数」より「質」の向上が進む中国市場:山根康宏の中国携帯最新事情
世界最大の携帯電話利用者数を抱える中国。3Gの開始やモバイルTV、NFCなど最新技術の採用が進む中国の最新携帯電話事情を連載でお届けする。今回は、中国携帯電話市場の最新の動向についてリポートする。
経済の発展が著しい中国では、携帯電話市場も右肩上がりの成長が続いている。2009年の業界再編以降は事業者間での加入者争奪戦が本格化、そして時期を合わせるように3Gサービスの解禁やスマートフォンブームも始まっている。わずかこの数年で中国の携帯電話事情は大きく様変わりしているのだ。
年間の新規加入者数は1億人、「質」の向上も進む
中国ではもはや携帯電話は特別な存在ではない。北京や上海、広州などの大都市ではすでに普及率は100%を超えており、例えば上海のオフィス街へ行けば、「iPhone 4」や「GALAXY S」など最新のスマートフォンを利用している中国人を当たり前のように見かけるほどだ。北京のアップルストアが2010年に開業したときは、あまりの来客の多さに開業翌日から数日間臨時休業したほど。所得の高い層にとって最新端末を持つことはステータスではなく、今では当然のことになっている。地下鉄の中では携帯電話でゲームをしたりチャットをする若者の姿も多く、その姿は他の先進国と変わりはない。
一方、貧困層が多い農村部では都市部から流れてくる中古端末に変わり、国産の安価な新品端末の販売数が伸びている。そのおかげもあって農村部の毎月の携帯電話加入者数は都市部よりも数を増やしているが、毎月の利用料金は数百円という低ARPU客が圧倒的に多い。だが中国の農村人口は約7億人で、日本の人口の5倍以上だ。コストや利益の変動が1利用者あたりわずか1円であっても、それは7億円の収入増、収入源につながる。日本のような単一市場ではなく、先進国と同じ高い利益単価が見込める大都市部と、新興国と同じ薄利多売でもうける必要がある農村部が混在している、これが中国市場の大きな特徴なのである。
中国の携帯電話加入者数が1億を超え、米国を抜き世界一になったのはもう10年も前の2001年のこと。その後も毎年の新規加入者数は6000万人前後で推移しており、成長は鈍化することなく続いている。普及率が50%台となった2008年には大都市での普及も一段落し、成長は鈍化すると考えられていたが、2009年には6社あった通信事業者が3社に再編、そして3Gサービスも同年に開始されたことにより、事業者間の競争激化や買い替え需要が高まっている。この2年間は年間の新規加入者数は1億を超え、今後まだ数年は高い成長ペースが続くとみられている。2010年末の携帯電話総加入者数は実に8億5000万に達している。
最近ではインド市場の成長が著しく、単月の新規加入者数ではインドが中国を抜き去った。だが中国では今、「数」より「質」の向上が進んでいる。3Gの普及率はまだ5%程度であるものの、モバイルTVや中国版おサイフケータイサービスの開始、電子書籍配信や事業者によるアプリケーションストアも始まっている。特に2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博といった国家的な大規模イベントが相次いで開催されたことにより、コンテンツやデータ通信利用の普及が大きく後押しされた。中国人の携帯電話の使い方はこの数年で大きく変化しているのだ。
スマートフォンも普及、「山寨機」も氾濫
この携帯電話の使い方の変化は、中国の消費者が求める端末の嗜好にも変化をもたらしている。特にスマートフォンやフルタッチフィーチャーフォンなど、指先で操作でき、Webサービスやコンテンツを利用しやすい端末の人気が急激に高まっている。数年前までは日本の折りたたみスタイルの端末が高級品というイメージを持たれていたが、今では画面が大きく中国語を指先で手書き入力できるフルタッチタイプの端末にトレンドは完全に移っている。シャープは日本メーカーとして唯一中国で端末を販売しているが、ラインアップの中には日本モデルの中国版だけではなく、中国向けに独自開発したフルタッチスマートフォンも用意しているほどだ。
端末の販売方法は数年前までは「回線契約=SIMカード」であり、端末本体が分離されていることが主流だった。China MobileとChina Unicom(中国聯通)の2社がGSMサービスを主力として提供していたことから、中国の消費者はどちらかのSIMカードと市販のGSM端末を組み合わせて利用していたのだ。だが3Gの開始以降、事業者とメーカーが協力して端末を開発する動きが広がっている。いわば日本式ともいえる開発・販売モデルで、各通信事業者は3G利用者を増やそうと端末価格の引き下げに躍起になっている。
端末販売時に本体価格を事業者が補助して値引きすることも今では当然のこととなっているが、メーカーとの共同開発、一括購入をすることでさらにコスト引き下げを図っているのだ。さらにはメーカーとの共同開発の流れの中で、事業者の独自開発OSを搭載した製品も出てきている。なお、中国では端末のSIMロック販売は基本的に行われていない。
このように3Gの開始で事業者とメーカーの協業が増えたこともあり、中国では国産メーカーが少しずつ勢いを復活させつつある。だがその一方で見慣れないメーカーの製品や大手メーカーのデザインやブランドをそのままコピーした端末の数も大きく増えている。中国では端末の製造は自由に行うことができるが、国内販売する際には日本のTELECのようにネットワークへの接続認証を取る必要がある。だがこの認証を取らずに闇で製造・販売される端末の数が急増しているのだ。いわゆる「山寨機」(さんさいき)と呼ばれる製品で、その数は中国国内だけで数千万台とも言われている。
この山寨機は安かろう、悪かろうの代名詞だったが、品質を上げて海外輸出までするメーカーも出てきており、海外の大手メーカーのエントリーモデルの販売に影響を与えるほど大きな存在にもなっている。
中国が世界をけん引する時代になるか
日本では2000年代前半にiモードなどコンテンツサービスが開始され、その後の10年間はそれをベースに付加価値を増やす方向で成長を続けてきた。今や日本の多くのユーザーが3Gサービスを使い、おサイフケータイでの決済を利用している状況からみれば、中国はまだまだ遅れているという印象を受けるだろう。だが中国の現状は、日本の10年前の、携帯電話の使い方やビジネスモデルが大きく変わり始めたときと類似した勢いを感じられる。
しかも中国には世界市場で互角に戦えるメーカーが数多く登場している。例えばHuaweiとZTEはインフラ、端末で世界のトップクラス入りを果たしている。前述した山寨機もメーカーによっては然るべき認証を取った上で海外向けに販売数を大きく伸ばしている。百度やQQなどのWebサービスも国内だけで数億人の利用者数を誇っており、これらが海外市場に本格参入すれば、その影響力は大きいものになるだろう。
2011年にはいよいよ国内でLTEの試験サービスも開始される。3Gの開始では他国に大きく遅れを取った中国だが、LTEは国内人口の多さを武器に今後数年で加入者数を大きく増やすとみられている。しかも都市部だけではなく、高速通信インフラが未整備の農村部でもLTEの普及は進むはずだ。そしてLTE需要の高まりにより、国内の端末メーカーやインフラメーカーに世界市場で十分戦える力をつけることになるだろう。中国の携帯電話事情は他国よりまだ遅れた部分も多いが、今後は先進国を追い抜き、技術やサービス面で世界をけん引する存在になる可能性を秘めているのだ。
関連キーワード
携帯電話 | 日本 | スマートフォン | シャープ | 通信 | LTE(Long Term Evolution) | 中古 | China Mobile | 先進国 | 華為技術(Huawei) | 上海 | Android | 通信事業者 | CDMA | 携帯電話市場 | China Unicom | GSM | インド | おサイフケータイ | Apple | アップルストア | ARPU | 北京オリンピック | 上海万博 | Galaxy S | iPhone 4 | NFC(Near Field Communication) | プリペイド携帯 | SIMロック | TELEC(テレコムエンジニアリングセンター) | タッチパネル | 山根康宏 | ZTE(中興通訊)
関連記事
- 山根康宏が現地からリポート:ついに中国でもスタート W-CDMA方式の3Gサービス
中国聯通(China Unicom)が5月17日、中国国内55都市で3Gサービスを開始した。通信方式はW-CDMA。今後エリアを拡大し、秋には本格的なサービスを開始する予定だ。 - ふぉーんなハナシ:中国の闇(?)ケータイ市場を見てきた
出張の合間に立ち寄った中国深セン市のケータイ市場には、「これ、どのメーカーの?」と言いたくなる機種や、“どこかで見た機種”が当たり前のように売られていた。 - 世界規模の技術はここで生まれている――Huawei本社に行ってきた
中国の広東省・深セン市に本社を構えるHuawei。同社がプレス向けに実施した本社ツアーに参加し、最新の設備や技術を見学してきた。 - シャープ、中国で3Dスマートフォン「SH8168U」など4機種を発表
シャープが3月16日、中国市場でAndroid OSやTapas OSなどを搭載したスマートフォン「SH8168U」「SH8158U」「SH7228U」「SH7218U」を発表した。 - シャープ、中国市場にフルタッチスマートフォン「SH8128U」「SH8118U」を投入
シャープが中国向けにフルタッチパネル搭載のスマートフォン「SH8128U」「SH8118U」を投入することを明らかにした。Androidベースの独自OS「点心」を採用している。 - シャープ、中国市場向け新モデル11機種を発表
シャープが4月13日、北京で中国市場向けの携帯電話新製品発表会を開催した。TD-SCDMA対応モデルを含む11機種を投入し、中国市場でのシェア拡大を目指す。 - これから本格普及の中国3G、日本の携帯技術にも関心集まる──ドコモ、シャープが「より便利」「高画質」をアピール
中国でも独自方式(TD-SCDMA)の3Gサービスが開始されたことで、よりリッチな携帯サービスが少しずつ展開されはじめている。そのため3G携帯の普及率が世界で最も高い日本の状況に関心を寄せる来場者が多く、日本企業のブースは高い注目を浴びていた。6月に中国の携帯市場に参入したシャープは、“AQUOSケータイ”で中国ユーザーにアピールする。 - 商用テストが始まった中国の3Gサービス「TD-SCDMA」、その実力は
中国の3G規格である「TD-SCDMA」の商用テストサービスが始まった。試験サービスということでエリアはまだ狭いものの、独自に開発したシステムということもあり、海外からの注目度は高い。今回、香港在住の筆者が中国の各都市で「TD-SCDMAがどのくらい使えるか」を実際に試した。 - 中国人にとっての携帯とは?
中国のケータイ事情はあまりよく知られていない。しかしその実態を調べると、中国人とケータイは日本人以上に(?)切っても切れない存在なのだ。 - 見逃せない中古ケータイ市場
携帯が“生活必需品”として普及している中国では、中古市場が活況を呈している。魑魅魍魎の中国携帯中古市場についてリポートしよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.