第8回 ライバルは「GALAXY Note」――5インチ超えスマホが急増する中国:山根康宏の中国携帯最新事情(2/2 ページ)
2013年に入ってから5インチクラスの大画面スマートフォンが各社から発売されている。中国でも今や5インチスマートフォンは人気商品となっており、多数のメーカーが製品を投入している。
China Unicomの「4521」戦略
各メーカーが大画面スマートフォンに注力する中、通信事業者側にも動きが出てきた。中国で携帯電話シェア2位のChina Unicom(中国聯通)は、2013年2月21日にCoolpad、ZTEとともに新しいスマートフォンを発表。21Mbpsの高速通信に対応し、ディスプレイは5インチ、そしてクアッドコアCPUを搭載しながらも価格は1000元台に抑えられた製品である。China Unicomは今後このスペックの製品を、1000元スマートフォンの主力として複数投入していく予定だ。
China Unicomは、2011年末に4インチの1000元スマートフォンを複数発売し、3日間で11万台を売り上げるヒット商品となった。当時は4インチが「新世代の大画面モデル」と呼ばれたが、それから1年ちょっと経った今回の新製品はディスプレイサイズだけではなくCPUや通信速度も強化されている。China Unicomではクアッド(4)コアCPU、5インチ、そしてHSPA 21Mbps対応の今回の新製品を頭の数字を取り「4521戦略」製品と呼ぶ。ライバルのChina Mobile(中国移動)、China Telecom(中国電信)も販売に力を入れる1000元スマートフォンであるが、China Unicomがスペックを大きく引き上げた「4521戦略」製品を投入するのは、3事業者による3G加入者の争奪戦がより厳しさを増している背景がある。
中国の3G契約者数は2013年2月末時点でChina Mobileが9498万、China Unicomが8013万、China Telecom(中国電信)が7206万と、各社拮抗した状態となっている。だがChina Mobileは今後6億を超える2G契約者が3Gへ大量に移転し、3G契約者を一気に増やし、リードを広げるとみられている。China Unicomはそこに目をつけ、新規契約だけではなくChina Mobileの2Gユーザーの自社への移転も、3G契約を増やすカギと考えているのだ。だが中国では、まだ番号ポータビリティー(MNP)はごく1部の都市でしか行われていない。そのため電話番号を変えてまでも顧客を移転させるためには魅力あるスマートフォン、すなわち「4521戦略スマートフォン」のラインアップ拡充は必須なのである。
また、China Unicomには国策も大きな悩みの種になっている。それはLTEの開始時期が定まっていないことだ。シェア1位のChina Mobileが4G免許を正式に交付されていないにも関わらず、国策により商用テストとしてTD-LTEのサービスエリアを年内には100都市に広げる予定となっている。TD-LTEスマートフォンも今年春から複数機種が投入され、テストという名目ながら、商用レベルのサービスが全国の主要都市で利用できるようになるのである。
これに対し、China UnicomはFDD方式のLTEの導入が事実上決まりとみられているものの、国策のTD-LTEとは異なり、FDD-LTEはテストサービスですら開始時期の見通しは立っていない。おそらく中国政府はChina MobileのTD-LTEの商用化のめどが立ってから、China Mobileに4G免許を与えるものの、China Unicomへの免許は同時ではなく遅れて発行することも予想される。
つまりこのままではChina Mobileの2G客が、China Mobileの3GではなくTD-LTEへと一気に移転する動きが加速するかもしれない。China Unicomはこれまで発売してきたスマートフォンの多くがHSDPAの7.2Mpbsまたは14.4Mpbs対応だったが、「4521戦略スマートフォン」の投入で21Mbpsの高速通信対応をアピールし、China MobileのTD-LTE開始に対抗しようと考えているのである。
2013年は5インチの普及の年になる
China Unicomの1000元スマートフォンの大画面化、ハイスペック化の動きはおそらくChina MobileとChina Telecomにも火をつけるだろう。だが端末メーカー側もすでに5インチモデルは大手から中小までほぼ全社が発売または発売予定であり、2013年の中国市場では、グローバル市場と同様に、5インチスマートフォンがどこでも見かける一般的な製品となりそうだ。コストの問題からディスプレイ解像度はHDかそれ以下のものが主力となるだろうが、噂される「Thl W8」のように、フルHDディスプレイのモデルも数を増やしていくだろう。
中国の携帯電話情報サイトでざっと見たところ、2013年3月時点で中国国内で発売されている中国メーカー製の5インチ以上のスマートフォンの数は約70機種にも上る。Lenovo、Coolpad、Huawei、ZTEなどの有名メーカーだけではなく、中小の携帯電話メーカーや家電メーカーなどから多数のモデルが販売されているのである。また新規メーカーの参入も相次いでおり、それらのメーカーからも大画面モデルが次々に登場している。
例えば、3月11日からスマートフォンの販売を開始した深センのNenken、その初の製品である「航母N3」は、5.7インチHDディスプレイにクアッドコア1.2GHzのCPUを搭載する。聞いたこともない新しいメーカーが、いきなりファブレットから市場に参入するのも驚きだが、価格も1499元と十分安く価格競争力も高い。品質やアフターケアなどは未知数なものの、この製品が市場に出てくれば、メーカー間の力関係に大きな影響を与えることは必須だろう。
また、2011年からスマートフォンに参入したKoobeeは、3月21日に北京で大々的な新製品発表会を行った。発表会には国内で同社のCMにも出演する台湾のトップアーティスト、蔡依林も登場。新製品のKoobee「Max M7」は5インチフルHDディスプレイ、クアッドコア1.5GHz CPU、カメラは13メガピクセル・F2.2、高音質な音楽再生などフルスペックながら価格は2499元。これから中国市場に5インチハイエンドスマートフォンを投入予定の海外大手メーカーにとっても、手強い相手になるかもしれない。
このように各メーカー、そして各事業者がスマートフォンの機能アップと低価格化を進めることで、中国国内で販売されるスマートフォンは、いずれ世界で最もコストパフォーマンスの高いものになっていくだろう。このまま進めば競争はより激しくなり、海外メーカーにとって中国は参入困難な市場になっていくかもしれない。果たして1年後の1000元スマートフォンはどこまで進化しているのだろう? 各メーカーの新製品動向からは今後も目が話せない状況が続きそうだ。
関連キーワード
スマートフォン | 中国 | China Unicom | China Mobile | LTE(Long Term Evolution) | 新製品 | ディスプレイ | TD-LTE | China Telecom | CPU | 通信 | クアッドコア | フルHD | ZTE(中興通訊) | 通信事業者 | コストパフォーマンス | フラッグシップ | HSDPA | 華為技術(Huawei) | レノボ | 番号ポータビリティ | 価格競争 | 解像度 | サービスエリア
関連記事
- 「山根康宏の中国携帯最新事情」バックナンバー
- 最新スマートフォン徹底比較:5インチフルHDスマホ比較(外観&スペック編)――持ちやすい/多機能なモデルは?
昨年冬から今年の春にかけて、5インチフルHDディスプレイが、スマートフォンの新しいトレンドの1つになりつつある。日本ではすでに5機種の5インチフルHDスマホが発表されている。ディスプレイだけでなく機能も最先端の、これら5機種を比較してみた。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第7回 秒読み開始となった中国のLTEサービス
中国のLTEサービスがいよいよ本格化する。年内には100都市以上にエリアが拡大される予定で、中国にも高速通信時代が到来しようとしている。 - ZTEキーパーソンに聞く(3):TD-LTE/FDD-LTEデュアルモードの基地局とスマホも開発――ZTEのLTE戦略
携帯電話やスマートフォン、ネットワークインフラを世界各国で提供する中ZTE。日本ではソフトバンクにAXGPの基地局を供給している。次世代通信サービスとして普及しつつある「LTE」を中心に、同社のネットワーク事業について聞いた。 - 上海万博にHuaweiの基地局あり――TD-LTEのデモを体験
上海万博では、China MobileがTD-LTEのテストエリアを会場に展開している。今回はHuaweiの屋外基地局を使ったデモンストレーションを見学し、TD-LTEを使った高解像度のテレビ会議や動画配信を体験した。 - 対応スマホ登場:AXGPって速い? 「SoftBank 4G」の実力を探ってみた
AXGPを採用したソフトバンクの高速データ通信サービス「SoftBank 4G」。これまでのデータ端末に加え、この冬モデルからは対応スマートフォンも登場した。その通信速度を調査した。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第6回 Google要らず、中国スマホで使われる国産Webサービス
中国で販売されているAndroidスマートフォンにはGoogle系のサービスが搭載されていない。しかし中国の消費者は不自由なくスマートフォンを日々使いこなしている。では中国ではどのようなサービスが利用されているのだろうか? - 山根康宏の中国携帯最新事情:第5回 iPhoneをもしのぐ勢い――躍進する中国メーカー“中華酷聯海”
中国国内の端末販売シェアに大きな異変が起きている。この1年で国内メーカーが急激に販売数を伸ばし、国内シェアの半数を奪ったのだ。特にスマートフォン市場ではシェア上位に国内メーカーが5社入るなど、各社は急激に力をつけはじめている。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第4回 “1000元スマートフォン”で激変する中国の携帯事情
中国のスマートフォンの出荷台数が急激に伸びている。米国を抜き世界一のスマートフォン大国となった中国で、今最も話題になっているのが「1000元スマートフォン」だ。1000元スマートフォンの登場は中国の携帯電話市場に大きな激震を与えようとしている。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第3回 メーカー乱立、スマートフォンに活路を求める山寨機
ここ数年、中国で最も勢いのある携帯電話はiPhoneでもAndroidでもない。無視できない存在にまで数を増やし、大手メーカーまでもが脅威と感じているのが「山寨機」と呼ばれる未認可端末だ。だが、ここに来てその成長に陰りが見え始めているという。何かと話題の山寨機の現状を探った。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第2回 鍵を握るのはスマートフォン、「1強2弱」に変化も――中国の3Gサービス
iPhoneの販売や独自規格のTD-SCDMA方式の普及など、中国の通信市場では3Gに関する話題が増えている。2009年からサービスが始まった中国の3Gサービスは今、どのような状況になっているのだろうか。 - 山根康宏の中国携帯最新事情:第1回 加入者数8億5000万、「数」より「質」の向上が進む中国市場
世界最大の携帯電話利用者数を抱える中国。3Gの開始やモバイルTV、NFCなど最新技術の採用が進む中国の最新携帯電話事情を連載でお届けする。今回は、中国携帯電話市場の最新の動向についてリポートする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.