「AIで効率化しても仕事が増えるだけ」──月○時間浮かせても報告しない社員たち 広がる“AI版静かな退職” (2/2 ページ)

日本も同様? パーソル総研に聞いた

 日本も例外ではないかもしれない。パーソル総合研究所の田村元樹研究員によれば、直接的なデータは出ていないものの、似た状況を匂わす調査結果が出ているという。

 例えば同社が実施した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」によれば、AIで削減できた時間の61.2%は再び業務に充てられている他、その多くが日常業務に使われており「効率化が本人の余裕として還元されにくい構造がある」(田村研究員)という。また、ヘビーユーザーほど残業時間が長い傾向も見えた。

生成AIとはたらき方に関する実態調査から引用

 さらに「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」では、AIの活用や、周囲への教育・サポートといった貢献が「正式な業務や評価に位置づけられていない」と感じる人が32.5%に上っていた。

AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査から引用

 以上の結果から、田村研究員は「『意図的に隠している』という行動は当社の調査からは直接見えていないが、上記のように共有しても報われる設計になっていない構造を踏まえれば、業務を効率化していること自体をあえて申告しない人が一定数いても不思議ではない。Uさんのコメントは、その構造をよく言い当てていると感じる」と話す。

労使双方が“果実”を得られるAI活用

 では、労使双方が“果実”を得られるようなAI活用の在り方は存在するのか。

 田村研究員は「生成AIとはたらき方に関する実態調査では、AIの利用を統制する『組織タイプ』でも運用を個人任せにする『現場タイプ』でもなく、個人の成果を組織の資産に変える設計が要点ということが分かった」と説明。理想的な組織には「マネジメント」「組織づくり」「人事評価」という3点の変容が必要と唱える。

 マネジメントについては「AIを使う環境では、部下の成果を引き出す上司の行動は、従来と変わる」と田村研究員。「仕事の入口と出口を管理する従来型に対し、AI環境では『仕事の枠と裁量を示す』『思考の深さを問う』『学びへ接続する』支援が成果に結びつく。上司は成果物の管理者から、人とAIの協働を整えるチューナーのような役割へ移る必要がある」という。

 組織づくりについては「AI活用で組織的成果を出す組織には『変化の受け皿』『意思決定の秩序』『機動的なヨコ連携』の3要素が共通する。これらが高い組織は業務標準化・生産性・変革の成果が高い。低い組織は成果が出ないだけでなく、調整負荷が現場管理職に集中する。属人的な根回しに依存しない仕組み化が鍵」(田村研究員)

 人事評価は「最も重要」という。田村研究員は同社の「人事部トレンド定量調査2026」を踏まえ「AI活用を『評価・処遇へ反映』している企業は12.0%にとどまる。まず人事が着手できるのは、工夫や試行、教育貢献を正式に評価対象へ組み込むこと、そして『AIを試した人が得をする』評価への転換」と分析する。

 以上を踏まえ「AIの利用量ではなく、成果につながる質を評価する設計が、労使双方が果実を得る前提になるのではないか」と田村研究員。昨今急速に広がるAI活用だが、その効果を最大化するには、組織体制の見直しまでを見据えるべきなのかもしれない。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR