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「モバイル向け燃料電池」も“秒読み”――日立がカートリッジ方式展示

» 2004年03月17日 23時02分 公開
[西坂真人,ITmedia]

 ビッグサイトで3月17日から開催しているナノテクノロジーの展示会「nano tech 2004」で、実用化に近づきつつある「モバイル機器向け燃料電池」が紹介されている。

photo ナノテクノロジーの展示会「nano tech 2004」

 自動車ではすでに実用化(リース販売)されている燃料電池だが、ノートPC/PDA/携帯電話など“モバイル機器向け”として期待されているのは、メタノール水溶液と高分子電解質膜を利用した「直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)」。水素ガスを積んで走る現在の燃料電池車と異なり、DMFCはメタノール水溶液と空気を直接電極に供給して発電する。発電時の化学反応で発生するのは、水と炭酸ガスのみという環境配慮型エネルギーでもある。

 エレクトロニクスメーカー各社は2002年頃から、モバイル機器(主にノートPC用)燃料電池システムを発表、もしくは展示会で参考出展するようになった。中でも積極的なのが、NEC/東芝/日立製作所の3社。nano tech 2004では、日立とNECがモバイル機器向け燃料電池を参考出展していた。

カートリッジ方式で“乾電池”感覚――日立

 日立製作所のブースで展示していたのは、昨年12月に発表したカートリッジ方式の燃料電池。同社の燃料電池システム自体はさまざまな展示会などで公開されているが、カートリッジ方式発表時のイメージ図に近い試作機で実際に動作するものを展示したのは、今回が初めてという。

photo カートリッジ方式のPDA試作機

 同社の燃料電池は、メタノールを透過しにくい「炭化水素系の電解質膜」と、高活性電極触媒「ナノ粒子分散触媒」を使うことで、メタノール水溶液から効率よく電気エネルギーを取り出すことができるのが特徴。高濃度のメタノール水溶液を利用できることから、カートリッジ方式での燃料供給も可能になった。

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 「カートリッジ方式を採用することで、燃料がなくなったら取り替えるという従来の乾電池と同じようなスタイルで利用できる。メタノールは劇物だが、カートリッジ化することで取り扱いを簡単にしている」(同社)

 カートリッジ1つ(20%メタノール水溶液5cc)で2〜3ワットの出力を発生し、連続4〜5時間の駆動が可能。後ろの黒いメッシュ部分の下に燃料電池パネルが入っており、上部(緑色の部分)からカートリッジを挿入する。カートリッジは、100円ライターで有名な東海と共同で開発した。

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 試作機はPDA用なので発生電力も少ないが、ノートPCの場合はパネルを広げることで、10数ワットの電力を生み出すことができるという。以前から出展していた燃料電池搭載のノートPCは、燃料タンクが固定式のものだったが、今回はカートリッジ式のノートPC用燃料電池パネルも試作(モックアップ)して展示していた。

photo ノートPC用燃料電池パネルのモックアップ(左)。カートリッジの容量を増やすことで、PDA試作機並みの駆動時間(4〜5時間)も確保できるという。右は燃料タンク固定式の従来タイプ

 「燃料電池のいい点は、パネルの大きさを変えるだけで、必要な電力を確保できる点。もっと消費電力の少ない機器、例えば携帯電話などに応用する場合には、もっと小型化することも可能になる。動作時間の目標は、1カートリッジで現在の3〜4倍(12〜20時間)。つまり、ほぼ1日使い続けられるようにしたい。メタノールの高濃度化と電解質膜の性能向上などで、十分可能な数値」(同社)

 ただし、劇物のメタノール水溶液が入ったカートリッジを、乾電池のようにコンビニや電気店で気軽に入手するためには、法改正やインフラ整備の必要がある。また、出力密度を考えたらメタノールは高濃度なのがいいが、その分危険性は高くなるというジレンマもある。

 「例えば、今回のカートリッジは20%とメタノール水溶液としては比較的低濃度だが、それでも飛行機に搭乗する際には、危険物とみなされて客室には持っていけず、荷物室行きとなる。また、小型化も課題の1つ。カートリッジや燃料電池(触媒)部分の大きさが決まっているので、なかなか小さくするのが難しい。それでも、2005年の商品化を目指して準備を進めている」(同社)

NECも水面下では秒読み段階?

 NECブースでは、昨年9月のWPC EXPO 2003で披露したノートPC用燃料電池を紹介。今回の展示では実際に動作させるといったデモンストレーションはせず、電極に採用した独自のナノ素材「カーボンナノホーン」の説明が中心となっていた。

photo カーボンナノホーンを用いた燃料電池を搭載したノートPC
photo カーボンナノホーンの実物(手前)と模型(奥)。栗のイガのような複雑な構造になっており、白金粒子が細かいまま定着する。表面積が広くなることで触媒の性能も向上し、燃料電池のエネルギー容量向上につながる

 電極触媒に同じ白金材料を使った場合、カーボンナノホーンは従来型に比べて約20%の効率アップが見込めるという。つまり同じ発電効率なら、その分モジュールを小型化できるのだ。燃料タンクは固定式で、スポイトのような燃料パックでメタノール水溶液を注入する。

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 昨年9月の発表では、燃料電池を内蔵したノートPCを今年中に実用化し、来年には40時間連続で駆動する燃料電池ノートPCを製品化するという計画を明らかにしている。今回の展示会では、実用化間近のプロトタイプが出展されるのではとの期待もあったが、残念ながら最新の開発状況に対するコメントは得られなかった。

 ただ一言だけ「当初の実用化スケジュールに変更はない」(同社)との自信に満ちた関係者の返事。水面下では、実用化の秒読み段階に入っている感触を得た。

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