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躍進するOpteronに残された課題とは?

» 2004年04月19日 17時15分 公開
[IDG Japan]
IDG

 32/64ビット両対応のOpteronを投入してから1年、米AMDはサーバ業界に揺さぶりをかけ、性能拡張を望むビジネスユーザーに64ビットコンピューティングの世界を開放した――しかも業界標準の価格で。

 同社は4月15日、ニューヨークでOpteronの1周年記念イベントを開催した。同プロセッサを利用するユーザーは、同一プラットフォーム上で32ビットと64ビットの両方のアプリケーションを走らせることができる。

 Opteronは広く支持を受け、Dellを除く主要なシステムベンダーは同プロセッサ搭載の製品を出荷しており、AMDの好業績を後押ししている。同社は先週、1〜3月期の売上が前年同期比73%増の12億ドルに達し、前年同期の1億4600万ドルの純損失から、4500万ドルの純利益へと黒字回復を果たしたと報告した(4月15日の記事参照)。

 Hewlett-Packard(HP)、IBM、Sun Microsystems各社とのパートナーシップにより、AMDはIntelに圧力をかけている。Intelはこれまで量産型のローエンドサーバ市場をほぼ独占している状態にあり、IDCによれば約98%のシェアを握っている。そのIntelが今年2月、同社のx86系プロセッサ向けにIntel Extended Memory 64 Technology(EM64T)と呼ばれる64ビット拡張技術を投入すると発表した(2月18日の記事参照)。

 Intelは、デュアルプロセッササーバ向けXeonにEM64T技術を採用した「Nocona」プロセッサを向こう2〜3カ月以内に投入するとしている。マルチプロセッササーバ用「MP Xeon」では2005年に同技術が採用される見通しという。

 AMDとIntelの競争によって、「64ビット技術のレースは一層アグレッシブになり、顧客に対してはさらに競争的な価格が提供されるだろう」と話すのは、Yankee Groupの上級アナリスト、ジェイミー・グルエナー氏。「ただ顧客は、自分たちが動作させたいアプリケーションにとって最適なプラットフォームはどちらかということを、真剣に検討しなければならない」。

 AMDにとって最大の課題は、Opteronを企業向け用途に向けて強化し続けることだ。つまり、プロセッサスピード向上以外に、法人ユーザーが求める信頼性と管理機能の高いチップセットの設計が必要になる。

 このシステム重視型の戦略こそ、Noconaベースのシステムが出荷された暁にIntelを優位に立たせることになるかもしれない。Dell、HP、IBMの各社はNocona採用を表明している。

 グルエナー氏は次のように語る。「Intelは以前から、プロセッサ設計だけでなくその周辺の要素――チップセット、管理機能を向上させる設計、システムの健全性――にも注目している。最近の同社の2つの強化版プロセッサでは、サーバプラットフォームの改善に多大な力が注がれている。AMDは真に(高性能な)プラットフォームの設計で素晴らしい成果を上げたが、取り組むべき課題はまだたくさんある」

 それでもシステムベンダー各社はOpteronベースの製品を続々と投入している。HPは今週、2月に発表した4ウェイOpteronサーバ「DL 585」(価格8300ドル)の出荷を発表する見通し。また同社は、デュアルOpteronサーバ「DL 145」を既に出荷済み。今週中にはDL 145マシンを使った新たなLinuxクラスタも発表する見込みだ。

 一方Sunは、セキュアなWebサービスに向けたテスト済みのハードとソフトのセットを発表している。これにはOpteronベースのv20z、Java Web Server、Solaris OSが含まれる。

 OpteronとIntelのEM64Tは――少なくともローエンド分野において――結果的にIntelの64ビットプロセッサ「Itanium」の普及に歯止めをかけることになるかもしれないとアナリストは指摘する。OpteronとEM64Tは、ハイエンド寄りでRISCライクなパフォーマンスを発揮するItaniumの対抗技術として位置付けられているわけではない。しかし大半のアナリストと業界観測筋は、Opteronの支持拡大がIntelにEM64Tを投入させるに至ったとの見方を示している。

 「真の代替選択肢がなかった頃なら、IntelはItaniumをただ推して事実上の業界標準になるまで待ったはずだ」とIlluminataのアナリスト、ゴードン・ハフ氏。「確かに、IBMのPowerといったダークホース的な存在もあった。しかしOpteronに対しては、特に緊急に対抗策を講じる必要があった。さもなければIntelは市場シェアを大きく失う恐れがあったからだ」

 Opteronの市場は明らかに確立されている。IDCによれば、Opteronが発表された昨年4月22日以降に出荷された同プロセッサ搭載システムは約3万5000台。これに対しIntelが2003年を通じて出荷したItaniumシステムは約1万9000台となっている。

 Gartnerのジョン・エンク調査担当副社長は次のように語っている。「これがItaniumキラーだとは言い切りたくない。なぜなら私自身はそうは思わないからだ。だが(Opteronは)Itaniumがこの量産市場に進出するうえで障壁になることは確かだ。IntelはXeonからItaniumへの移行ペースを速めたがっていた。同社がXeon技術の拡張を余儀なくされたことが、量産市場におけるItaniumの採用を遅らせていることは明らかだ」

 ミネソタ州のシャコピー学区でISマネジャーを務めるウェイド・フィリップス氏は次のように語る。「64ビットアーキテクチャシステムに移行する際の最大の障害の1つは、われわれがこれまで多額の資金を投じてきた32ビットアプリケーションをすべて動作させることだ。われわれ公共教育機関の立場から言えば、(32/64ビットの)両方のアプリケーションを実行できる段階的な移行を踏まずして、64ビットコンピューティングを導入することはほぼ不可能に近い」

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