NECとNECパーソナルプロダクツ、日立製作所は7月30日、CPUとHDD両方を冷やすデスクトップ向け新水冷システムを共同開発したと発表した。HDDを遮音ボックスでくるんで静粛化し、こもった熱を水冷ジャケットを通して排出する仕組みで、HDD水冷ジャケット実用化は世界初。冬商戦に向けて発売するテレビ一体型PCに搭載し、「DVDレコーダーよりも静かなPC」としてアピールする。
HDDは通常、専用の冷却装置は不要だが、新システムは、HDDをまるごと吸音材付き遮音ボックスでくるんで動作音を静粛化したため、遮音ボックスの断熱効果で熱がこもる。この熱を、ボックスに内蔵した水冷ジャケットから逃がす仕組みだ。
水冷システムはCPUと共通になっており、HDDを冷やした液体をそのまま循環させてCPUを冷却。その後ラジエーターに戻して冷却し、再度循環させる。
HDDの音も抑えることで、従来の水冷システムよりも静音化した。従来は、CPU・HDDフル稼働時の動作音は32〜33デシベル程度だったが、新システムは25デシベル程度と、HDDレコーダーの騒音(22〜28デシベル程度)と同等かそれ以下に抑えた。
まずは、今冬に発売予定のテレビ一体型PCに搭載し、HDD録画中でも動作音が気にならない静音性をアピール。その後ノートPCなど他製品への搭載を検討していく。
日立は2002年に世界初の水冷ノートPCを発表して以来、水冷システムの開発を続けてきた。NECにもライセンス提供しており、デスクトップPC「VALUESTAR」シリーズの水冷モデルに採用されている。業務用では、日本ヒューレット・パッカードが1月に発表した業務用ワークステーションにも搭載された(関連記事参照)。
今回発表した水冷システムは第4世代に当たる。水冷ジャケットのフィン間隔を従来よりも0.06ミリ狭い0.09ミリに抑え、面積当たりの冷却性能を高めたのが特徴だ。
ここ数年でCPUが低消費電力化し、従来ほど熱を持たなくなった。その結果静音で強力に冷却する水冷システムへのニーズも落ち着いている。「一昨年から昨年ごろ、水冷システムへのニーズは落ち込んだ」――日立の源馬秀明サーマルソリューション事業センタ長は認める。
ただその間も水冷システムの開発は進み、冷却技術は進化を続けたため、「最新CPUだと冷却性能が余り、ほかのものを冷却する余裕が出る」(源馬氏)という結果に。このためCPUだけでなく、HDDまで冷やせるシステムが完成した。
今後、水冷へのニーズは高まると見ている。「Windows Vistaが標準になると、グラフィックスボードの冷却が注目を浴び、水冷式も必要とされるだろう」(日立コンシューマ事業グループ・ソリューションビジネス事業部長の山田健司氏)という予測や、「CPUの低消費電力化でトータルの熱は下がったが熱密度が上がり、ピンポイントで高熱となるため、集中して冷やす必要が出てきている。遠い将来だが、CPUに高度なグラフィックス機能が統合されれば、水冷へのニーズも高まるだろう」(源馬氏)という展望があるためだ。
PCの“家電化”も、静音化へのニーズを喚起する可能性があるという。「エアコンや冷蔵庫がそうだったように、白物家電は静音競争が行われるもの。PCが家電として存在感を増すに連れ、静音性も重視されるだろう。次世代DVD機器などAV機器の静音化にも生かせるだろう。次世代DVDはハイスピードで回転するから動作音が大きい。HDD冷却システムを応用できる」(NECパーソナルプロダクツの小野寺忠司氏)。
当面の課題はコストだ。「銅など原料価格が高騰している上、水冷システムは手作業で組み立てるためどうしてもコストがかかる。国内ではなくマレーシアの工場で組み立てるなどして努力はしており、今後もコスト削減に取り組んでいきたい」(源馬氏)
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