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西日本鉄道「nimoca」はこんなサービスになる神尾寿の時事日想: (2/2 ページ)

» 2007年12月21日 13時06分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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 一方、鉄道におけるnimoca導入では、IC化による改札通過や料金精算の効率化・利便性向上はもちろんだが、その先にある「相互利用」を重要視しているという。

 「我々はnimoca導入に当たり、※(JR東日本のSuicaと同じ)サイバネ規格を導入しました。これは近い将来、他の鉄道事業者と相互利用を実現するためです。福岡では、平成20年に我々がnimocaを導入し、その翌年にはJR九州と福岡市交通局(市営地下鉄)がIC乗車券システムを導入する予定になっています(参照記事)。これらはすべてFeliCaのサイバネティクス規格に準拠する予定で、すでに相互利用についての準備が進められています」(飯田氏)

※サイバネ規格……日本鉄道サイバネティクス協議会出改札システム委員会が定める「ICカード規格」。JR東日本のSuicaを筆頭に多くの鉄道・バス事業者がサイバネ規格に準拠している。同じサイバネ規格同士のシステムは相互乗り入れがしやすい。

 この相互利用が始まれば、西日本鉄道の鉄道・バスと、JR九州の鉄道、福岡市交通局の地下鉄のどれにでも、1枚のIC乗車券で乗れるようになる。東京圏におけるSuica/PASMO連携(参照記事)と同じように、シームレスな移動環境が実現できるのだ。これは公共交通の利用促進にも大きな効果がある。

 「福岡市の公共交通関係を俯瞰しますと、実は鉄道路線が競合している部分がないのです。むしろ、それぞれの事業者が相互補完的に路線を展開している。さらに西日本鉄道のバス事業で見ますと、JR九州や地下鉄の駅から先の部分をバスが補完する形になっていますから、IC乗車券システムの相互利用化を進めることはお互いに大きなメリットがあるのです」(飯田氏)

福岡(天神)駅の駅改札口や券売機では、すでにnimoca用のIC乗車券対応設備の導入が始まっている。機器は東京で見かけるものとほぼ同じ

プリペイド、定期券、クレジットカード一体型を発行

 鉄道・バスの総合的な利便性向上を目指して導入されるnimoca。そのサービス内容は、どのようなものになるのだろうか。

 「まず、nimocaの機能としては、プリペイド型のSF(ストアードフェア)カード、定期券、クレジットカード一体型を用意する予定です。発行形態は『無記名式』と『会員登録(記名)式』、『クレジットカード一体型』という形になるでしょう」(飯田氏)

 無記名式nimocaは、個人情報の登録なしで購入できる。支払い方法はプリペイド(前払い)なので、現行の磁気式プリペイドカードを機能を代替するイメージだ。気軽に購入・利用できるのがメリットだが、紛失時の再発行ができないなどのデメリットもある。

 次に会員登録式は、他事業者でいう“記名式IC乗車券”に近いものだ。支払い方法がプリペイドである点は同じだが、購入時に個人情報の登録がある。これにより紛失時の再発行が可能になる模様だ。さらにnimocaの会員登録式では、個人情報や属性情報を登録した上で、西鉄グループの会員サービスに参加することでポイント獲得時の条件が無記名式よりも優遇される予定だ。

 クレジットカード一体型は、プラスチックのクレジットカードの中にFeliCaチップが内蔵されてnimocaが利用できるタイプで、JR東日本の「VIEWカード」に近い。プリペイド型と同じnimocaのIC乗車券・電子マネーの機能に加え、オートチャージ機能が最初から利用できる。このため交通利用に関しては、ポストペイ(後払い)方式と同様の使い勝手で利用できる。

 「クレジットカード一体型nimocaのオートチャージは、駅の改札はもちろんですが、バスに設置するリーダー/ライター(支払い用の読み取り機)でも実現する予定です。バスでのオートチャージは、おそらくnimocaが全国初ですね」(飯田氏)

 なお、西日本鉄道はクレジットカードの発行会社(イシュア)になる予定はなく、クレジットカード一体型nimocaは提携カードとして発行される予定だ。そのためクレジットカードのサービスやポイントプログラムは、提携した発行元イシュアのサービスに準じる模様である。

交通・電子マネーに幅広く対応したnimocaのポイントプログラム

 nimocaでは当初からポイントプログラムも用意される。このnimocaポイントは、鉄道・バスの交通と電子マネーの両方に対応する予定だ。

 まず、交通分野でのポイントプログラムだが、これは現行の磁気式プリペイドカードが持つプレミアム分を代替する“乗車ポイント”になる。現在、磁気式プリペイドカードでは、西鉄バス用の「バスカード」や、西鉄バス・鉄道・市営地下鉄で使える「よかネットカード」があり、前者は5000円で5750円分(プレミアム分は750円)、後者は5000円で5500円分(プレミアム分は500円)として使えるようになっている。しかし、nimocaでは事前に上乗せされるプレミアム分は廃止され、鉄道・バスの利用に応じて貯まるポイントを、SF(利用分)として再チャージして割引プレミアムの代わりにする。

 「乗車ポイントは利用実績に応じた内容にする形を考えていまして、一定期間の利用回数や利用額に応じて『ポイント加算率が変動する』ものになるでしょう。また、従来の磁気式プリペイドカードでは、バスと電車でプレミアム分が異なりましたので、(バスと電車で)ポイント加算率を変える可能性が高い」(飯田氏)

 ポイント加算率や変動基準はまだ検討中ということだが、乗車ポイント制度・割引の仕組みは、スルッとKANSAIの「PiTaPa」や琴平電鉄の「IruCa」などと同じ利用実績反映型を、さらに高度化したものになりそうだ。利用者にとっては、事前プレミアムからポイントと形は変わるが、nimocaに割引制度が導入されるのは朗報だろう。この点について飯田氏は、「公共交通事業者として、ご利用の多いお客様に何らかの形で(割引)還元するのは当然のこと」と話す。

 次に電子マネーのポイントプログラムだが、こちらはnimocaの発行形態によって適用条件が異なる。

 「電子マネーのポイントについては、無記名式nimocaには付与せず、会員登録型のnimocaと、クレジットカード一体型のnimocaが付与対象になる予定です。ポイント付与率は加盟店が独自に決められる仕組みになるでしょう」(飯田氏)

 このようにポイント獲得の仕組みや付与率に違いはあるものの、電車・バスと電子マネー加盟店で獲得したnimocaポイントは同一のものとして、nimocaのSF(利用分)に交換・チャージできる。貯めたポイントが、再び交通利用や買い物に使えるため、汎用性は高いと言えるだろう。

電子マネー加盟店は500店舗から開始。共用のFeliCa決済は何になる?

 一方、nimocaの電子マネーは来春のサービス開始時から導入される。交通乗車券としてチャージしたSF利用分を電子マネーとしても使える、という仕組みは、SuicaやICOCA、PASMOなどと同様である。

 nimoca電子マネーの加盟店は、天神ソラリア地区の商業施設と駅ナカの店舗、福岡の西鉄ストアなどを中心に展開。nimocaサービス開始初期の加盟店数は500店舗程度で、「設置リーダー/ライター数で見れば、500以上になる」(飯田氏)予定である。

 nimoca電子マネー加盟店に設置されるリーダー/ライターはJR東日本メカトロニクス製の共用端末になる模様だ。このリーダー/ライターはイオングループがSuica/iD/WAONの共用端末として採用しているほか、QUICPayやEdyなど多くの方式に対応していることで知られている。

JR東日本メカトロニクス製の共用端末。NTTドコモとJR東日本が共同開発したものだ(参照記事)

 西日本鉄道ではnimoca電子マネー以外のFeliCa決済導入・共用化の組み合わせについては、基本的に加盟店に任せる方針だという。

 「西日本鉄道として加盟店にお願いするのは、nimoca電子マネーの導入とnimocaポイントへの参加だけです。リーダー/ライターは共用端末で統一しますが、nimoca以外のFeliCa決済として何を導入するかは、加盟店の判断で、個別にそれぞれの(FeliCa決済の)アクワイアラと契約していただく形で考えています」(飯田氏)

 つまり、nimoca電子マネー加盟店では、nimocaが使えるのは共通であるが、その他の組み合わせとして「どのFeliCa決済が使えるか」は加盟店や場所によってバラバラになる可能性があるということだ。

 西日本鉄道の福岡市内での影響力の強さを鑑みれば、nimoca電子マネーが“地域の交通系電子マネー”として広く普及することは予想できる。iDやQUICPay、Edyなど他のFeliCa決済の事業者にとっては、「nimoca電子マネーとの共用化」で、どれだけ多くのnimoca電子マネー加盟店を取り込めるかが、福岡における勢力を広げる鍵になりそうだ。

天神ソラリア地区の街並みや商業施設。これらは西日本鉄道の商業施設であり、nimoca開始時、このエリアは一気にnimoca電子マネーが広がる予定だ

西日本鉄道の創立100周年に当たる年にnimocaを導入

 nimocaは現在、来春のサービス開始に向けて着々と準備が進んでいる段階にある、2008年は西日本鉄道にとって創立100周年にもあたり、nimoca導入は将来を見据えた重要な取り組みの1つだ。

 「来年、西日本鉄道は創立100周年を契機に、沿線価値の向上と、新たな事業展開と裾野の拡大を目指していきます。その中でnimocaは重要な役割を担っていくでしょう。

 さらに福岡の中の西鉄としては、お客様の利便性を向上し、公共交通の利用促進と、福岡・天神の経済を活性化していきたい。nimocaの電子マネーやポイントが(福岡という)地域に広がり、多くの方に喜んでご利用いただけるサービスになるよう努力していきたいと思います」(飯田氏)

 nimocaはIC乗車券システムと電子マネーの両方で、多くのサービス内容を用意しており、割引やポイント制度での工夫も多い。来春のサービス開始を、期待して待ちたい。

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