ITmedia NEWS > ネットの話題 >

“公認MAD”は流行るのか 2次創作のこれから座談会 UGCの可能性を考える(後編)(1/3 ページ)

» 2008年07月22日 08時29分 公開
[大塚純ITmedia]

前編:「ニコ動作家はもうけちゃダメ?」「才能、無駄遣いしていいの?」

角川の“公認MAD” どう評価する

座談会参加者 肩書きなど
津田大介さん IT・音楽ジャーナリスト
栗原潔さん 弁理士で、初音ミク作品をニコニコ動画に投稿
吉川日出行さん みずほ情報総研コンサルタントで、週100本はニコニコ動画の映像を見る
太田敬一郎さん 音楽アーティストをマネジメントするソニー・ミュージックアーティスツの企画戦略部所属
画像 左から津田さん、栗原さん、吉川さん、太田さん

――UGCならではの作品と言えば、MAD(アニメの映像などにユーザーが別のコンテンツを加えて編集した動画)があるわけですが、どう思われますか。

画像

太田 角川が行っているMAD対策――無許可でYouTubeに上げられたMAD作品を検索でチェックして、公開してOKと判断すればお墨付きをあげるというシステムはすごいなと思ったんですよ(「ユーザー投稿角川アニメ」の公式認定も YouTubeに角川参加)。あれは角川歴彦会長のトップダウンでしかできないことじゃないですか。一番上の人がOKを出すという、そこがすごいことだなと思いました。ほかに、手塚治虫の作品を使った例もありましたよね(“鉄腕アトムで「公式」2次創作を――投稿サイト「Open Post」)。

津田 やってたんですが、ダメだったんですよ。手塚治虫の作品が自由に使えるという、試みとしてはすごく良くできているし革新的なんですけれど。たぶん、それって、MADの持つ批評性みたいなものが論点としてあるのじゃないかと。

 MADとパロディって近いじゃないですか。フランスの著作権法にはパロディ条項というのがあって、正当なパロディと認められれば著作権法的にOKになってるわけですね。あれ、なんで成立するかというと、パロディーは批評だし、それは表現の自由と結びついてるから。だから、パロディなら何でもOKというわけじゃなくて、パロディが成立するには、元ネタが有名であるとか、オリジナルと混同されないよう、明確にパロディ作品であることが分からないといけない。批評的スタンスから作品が作られているから、パクられた側から怒られてもしかたないものがパロディとして優れた作品になるわけで。作る方にもそれぐらいの気概が必要ということでもありますね。

 かたや日本はどうかというと、同人文化って違いますよね。パロディのような批評じゃなくて、作品が好きで好きでたまらないから、その作品の舞台背景やキャラクターや設定を借りて自分で新たに作っていく、オマージュ的な作品の方が大多数。その辺の特殊な日本の同人文化が、海外のクリエイターとか著作権の専門家には理解できないみたいなんですよね。

 ニコニコ動画で盛り上がってるMADも、原作とか事象をバカにしようという批評性が高いMADと、そうじゃないMADの2種類がある。前者のような批評性が高い、対象をバカにするようなMADに、MADの面白さを求めるなら、そんなものに著作権者からお墨付きが出るわけないだろうっていう話はありますよね。

 角川グループが今やってるMAD公認という動きはすごいと思うし、革新的だと思いますけれど、それだけでMAD文化が本当に豊かになるのか、それが唯一の回答かというと、違う気がしますね。

「IKUZO」は批評性のあるMADだ

画像 「ニコニコ大会議」には吉幾三さんからの花が届けられていた

太田 あの、Perfumeとビースティー・ボーイズと吉幾三のMAD(「IKUZO」と呼ばれる作品の1つ)、あれとかやっぱりその、なんだろう、地方の閉塞感をこれは歌っているのかなと?

一同 (爆笑)

太田 なんとなくそういう批評性があって、すごく面白いなと感じたんですよ。より広がりを持つというか、そう思わせてくれるものがあった。実はあれが今まで見たMADの中で一番面白いと思ったんですよ。でも、あんな映像、普通の人は絶対持ってるわけないよねみたいな、吉幾三が三越のライオンに登っちゃうような絵とか。もしかして、関係者が流しているのかとか……。

吉川 それこそMADを使って広告にしようとか、それで有名になろうというのは、もう業界では始めていたりするんですか?

太田 いやぁ、どうなんでしょう。でも、やれなくはないですよね。

画像

吉川 ありえますよね。それこそアイマスなんて、あれでダウンロードコンテンツが何億円分も売れたりとか、Perfumeもたぶんそうだと思うし。

津田 実際「ニコニコ市場」とかを見ると、マッシュアップものでは両方のものが売れてたりしますからね。

太田 だから、ちょっとティーザーっぽく、コマーシャルを打つということはできてしまうんだろうなと。

吉川 吉幾三はあれで売れなかったんですか?

津田 多少は売れたんじゃないですかね?

吉川 あのタイミングで何かを出せば、たぶん売れたでしょうね。

栗原 素材を出して、これで自由にリミックスしてくださいなんていう企画は、割と昔からありますよね。

吉川 そこまでやらなくても、あのタイミングでセルフカバーでもいいから、新作として出しておけば、たぶんノリで買った人はいるんじゃないですかね。

公認MADは誰が得をする?

栗原 なかなか難しいのは、オフィシャルでこれでMADを作ってくださいと言われると、あまり盛り上がらないことが多いと思うのですが。

津田 それはだいたい失敗するんですよね。MADの前に、音楽だと「マッシュアップ」というのがあったじゃないですか。もともとマッシュアップは音楽の組み合わせみたいなもので、あれが盛り上がってきた時に、デヴィッド・ボウイが公式マッシュアップ・コンテストをやったら、全然盛り上がらなくて、ろくな作品があがらなかったという。やっぱり、インターネットのマッシュアップ・コミュニティーとかは、そんなお墨付きなんかでやるのはごめんだというのがあって。

吉川 悪いことをやっているという、その背徳感が実はエネルギーになってる部分があると言っている人もいるので(笑)、難しいと言えば難しい……。

画像

津田 角川さんの、YouTubeからMADをOKにしようという動きを見てて思い出すのは、音楽の「サンプリング文化」の歴史なんですよ。ヒップホップが盛り上がってきた80年代中盤に、サンプラーという楽器が登場して、どんどんいろんな大ネタを使って新しい音楽の表現としてヒップホップが盛り上がって、それがポップスの世界にまで拡大してきた。90年前後ぐらいまでは、サンプリングについてはノールールで好きなようにやってきたわけですけれど、さすがに権利をクリアにしようみたいなことになったのはいいとして、どうクリアするかという統一的なガイドラインを作らず、とりあえず金を払うことだけが常態化したものだから、そうすると、大ネタを使おうとすると本当に高い値段になってしまったというのがあるんですね。

 下手すると、あのYouTubeの問題も、角川が認めたものだけOKにするというところが、結構危険な部分があって、もしかするとサンプリングと同じように、そこでMAD作ってもいいけど、あとになってから、じゃこれ払ってみたいなところにつながるケースもありえるわけで……。

太田 徴収システムを作っていく過程の可能性もあるという?

津田 じゃ、誰がもうけるの? と言ったら、もしかしたらそのDRMを作るGoogleなのかもしれないし、権利処理を行うJASRAC(日本音楽著作権協会)かもしれないし。クリエイターは実はそこで、もしかしたら結果的に負担が増えているだけかもよという……。自由に作品を使えなくなる、そこは気を付けなきゃならないという気はしてるんですよね。

音楽や映像、歌詞を「引用」できればいいのだが

吉川 いつも思うんですけれど、文字の引用って明確にできるじゃないですか。でも、音楽とか映像になると、いきなりその引用みたいなものが全然できなくて、0か1かになってしまうのは、バランスとれないんですか?

栗原 著作権法上、引用というのは批評とかそういうためのものなので、自分の作品に取り込むというのは想定してないですね。

津田 そうなんですよね、それもあるし、JASRACの考えでいうと歌詞というのは引用できない、という。

栗原 それはちょっと、まぁ、もめることもあるみたいですけどね(笑)

津田 でも、JASRACの見解としてはそうなんですよね、基本的に。おかしいだろうという話は当然あるんだけれども。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.