ある休日。妻と2人で外食しながら、携帯電話をチェックする。携帯電話向けTwitterクライアント「movatwitter」(モバツイッター、モバツイ)にアクセスし、Twitterをチェック。うまくつながらないと「帰りたくなる」。
Twitterにはまっていて、どうしてもチェックしたいから、家に帰ってPCで確認したい――というわけではない。「監視の意味で、いつもチェックしている」。藤川真一さんはモバツイの開発者。15万ユーザーが使うサービスを、1人で開発・運用する。
普段はpaperboy&co.で、ショッピングモール「カラメル」を統括するプロデューサー。モバツイは趣味だが、「家にいる時間はほぼずべてモバツイに費やす」ほどの力の入れようだ。長期休暇は「機能追加週間」。お盆休みもゴールデンウィークも、機能追加や負荷対策に明け暮れた。休む時間もないが、楽しいという。
2007年4月に開発してから2年。月間ページビューは6000万と、個人が運営するサービスとしては破格の大きさに成長した。負荷の急増に「このままではヤバイ」と焦ったこともあったが乗り越え、今は「1億ページビューを超えたい」と意気込む。使ってくれるユーザーがいることが、励みになっているという。
妻のすすめでTwitterを使い始めた07年4月、Twitterが日本語の投稿には完全対応していないことに気付き、日本語の自動送信ツールとしてモバツイを企画した。携帯電話向けにしたのは、画面デザインが苦手だから。PCより小さな画面で済むし、Twitterは、モバイルと相性がいいと考えた。
自分用に作ったサービスだが、一般公開してみたところ、口コミでユーザーが拡大。当時はTwitterの携帯電話向けサービスがなかったこともあり、「1日100人ぐらい増えていった」という。携帯電話からTwitterに写真を投稿できる機能や、GPSから位置を取得する機能など、思い付いた機能を盛り込んでいった。
新機能の動作テストは「Twitter的」だ。自分やサービスのTwitterアカウントで新機能を告知。フォローしているユーザーがテストした結果を報告してくれるため、テスト用端末を購入して1つ1つチェック――という手間もなく、2日ほどで各キャリアのテストが完了するという。
機能追加は試行錯誤。クリップボード機能など、「あまり受けなかった」機能もあれば、“ふぁぼり”機能(Twitterのお気に入り登録機能)などよく使われる機能も。「独自の機能はあまり使われない。機能追加はTwitterという文脈の中で行わないと受けない」と気付いたという。
ユーザーIDやパスワードといった個人情報の管理も、重要な仕事だ。パスワードは暗号化。ログイン後のアクセス用URLは外部にもれないよう、検索よけを施している。ユーザー本人がソーシャルブックマークに登録するなどしてURLがWeb上に載っているのを見付けた場合は手動で削除するなど、気を配っている。
「自宅サーバでどこまでできるか、突き詰めたい」と、つい最近まで自宅サーバで運用していた。
最初の2年は、サーバ1台と、手持ちのルータで運用。負荷が増えるにつれ、メモリを増設し、CPUを増強し、データベースサーバを追加し――と工夫していたが、Twitter本サイトに紹介リンクが掲載された今年5月以降、ユーザー数やアクティブ率の急増に伴い、ルータの負荷がいっぱいに。ルータを増強したが間に合わず、家からUstreamを見られなくなったり、ネットにつながらなくなったりした。「自宅サーバでは600万PVが限界」だったという。
自宅サーバで運用しているとメンテナンスも大変だ。HDDが壊れて徹夜でメンテしたこともあれば、ハブが壊れ、仕事を抜け出して家に帰ったことも。エアコンは24時間フル稼働。それでも部屋は暑いという。サーバとエアコンに加え、自宅の家電も使ったらブレーカーが落ちたこともあった。自宅サーバの調子が悪いと機嫌が悪い――そう妻に言われたこともあるという。
サーバを増強するにも自宅にはスペースがなく、電源容量にも限界が。実家など別の場所に置かせてもらうにもメンテナンスの手間がかかる。自宅サーバでの運用の限界に来た6月、米Amazon.comのクラウドサービス「Amazon EC2」に一部サーバを移行した。EC2ならハード面のメンテナンスが不要で、サーバの“増設”もほんの30分程度で可能。負荷対策も簡単になる。「EC2がなかったら、個人運用は続けられなかった」
EC2の月額費用は1600ドル(約15万円)と痛い出費。約2万円の電気代とHDD取り替えなどメンテナンスコストとだけで済んでいた自宅サーバ時代とは比べものにならないが、コストは、モバツイに貼ったAdSenseでまかなえているという。
「モバイル版AdSenseってどれぐらいのものだろうか」――モバツイにAdSenseを導入したのはそんな興味から。貼り付け位置などを工夫するうち、「PV増に伴って収益が上がる流れができてきた」という。AdSenseはほぼ唯一の収入源。「“AdSense狩り”(規約違反などでGoogleにAdSenseを止められること)にあったら、モバツイは死にます(笑)」
寄付も募った。お金がほしいというよりは、「見知らぬユーザーが増える中、ユーザーとつながっている実感を得たい」という思いから。ネット企業役員などから高額の寄付もあったが、「運営コストをまかなうには厳しい」額にとどまったという。
ユーザーが藤川さんの励みだ。運営には手間もお金もかかり、寝る暇も休む暇もないこともあるが、モバツイは楽しいと笑う。「モバツイを使ってくれている人がいること、モバツイで生活が変わったと言ってもらえることがうれしい。インフラを提供して、ニコニコしていたい」
当面の目標は、月間1億ページビュー達成だが「どうなるか分からない」というのが本音だ。Twitter日本版公式の携帯サイトの開発も進んでおり、「公式日本版ができればユーザーはそちらに流れるだろう」とも思う。ただ「Twitterが電話ぐらいのインフラになれば、モバツイのような派生ビジネスも、なくならないだろう」という期待もある。
いつかは、Twitterなど外部サービスに頼らず、ゼロからユーザーを集めたオリジナルサービスも、作ってみたいという。
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