ひきこもりからIT社長に転身したpaperboy&co.(ペパボ)創業者の家入一真さんはいま、6軒のカフェのオーナーだ。
ペパボで手掛けてきたレンタルサーバ事業とカフェ。まるで関係ないようにも感じるが、家入さんには、はっきりとつながって見えている。
「場所を用意して、そこで各自がいろんなことをするのを、下で支えるのが好き。そういう意味では、レンタルサーバもカフェも同じ」
ペパボの創業は9年前。「家族とゆっくり過ごせる時間を作りたい」と脱サラした家入氏が、福岡市内の自宅で起業した。1カ月目から黒字。1人でやるつもりだった会社はどんどん大きくなっていった。
2003年、GMO(現:GMOインターネット)の出資を受け、04年には本社を東京に移転。リーマンショックで世界経済がどん底だった2008年12月、ジャスダック証券取引所(JASDAQ)に上場した。
「ペパボは上場しなくていいのでは」――そんな声も多かった。創業時から黒字続きで「貯金もすごかった」。差し迫った資金調達の必要もなく、親会社に上場を迫られたわけでもない。それでも上場したかった。
「福岡から出てきて上場も何も知らない中、内藤くん(ドリコム社長の内藤裕紀さん)とか田中さん(グリー社長の田中良和さん)とかが『上場や!』と言い出してたのがかっこよくて。それに、周りから『上場しない方がいい』と言われると、したくなっちゃう。あまのじゃくなんですよね」
「うちみたいな会社が上場したら、勇気づけられる会社もあるだろう」とも考えた。ペパボは受け狙いでサービスを作ったり、特に目的もなく社内の様子を動画配信してみたり、企業理念は「もっとおもしろくできる」だったりなど、面白いことが大好きな、ちょっと変わった会社。そんな会社でも上場できると証明すれば、似たような会社の上場を応援できるのでは。そんな思いもあった。
上場から4カ月経った09年3月。家入さんは社長を退き、代表権のある「最高クリエイティブ責任者」(CCO)に就任。「コロコロしててカワイイから」と、CCOという珍しい肩書きを選んだという。今年3月には代表取締役も退任して非常勤取締役に。保有していたペパボ株も一部売却するなど、ペパボとの関わりを徐々に薄くしてきた。
社長を辞めた理由はいくつかある。ペパボが自分だけの会社ではなくなったという思い、自分は経営に向いていないという意識、ペパボ以外の「やりたいこと」に力を向けたいという考え――すべてを受け止めてくれる仲間にも恵まれた。
「自分がいつ死んでもまわる会社にしたい」。以前からこう考えていた。会社は自分だけのものではない、とも。「会社はクレイアニメみたいなイメージ。いろんな色の粘土が、混ざったり離れたり、ぐにゃぐにゃして色が変わっていくような」
会社が小さいころは、ペパボ=家入一真でだいだい間違いなかったが、会社が成長し、いろんな色の社員が加わっていくにつれ、「家入一真という個人と、ペパボという法人が、イコールじゃなくなってきた」
社員が面白いサービスをリリースしても、「家入のペパボがすごい」といった見方をされ、社員にスポットライトが当たらなかったり。「僕が好き勝手やってる中でみんな頑張ってるのに、申し訳ない気持ちがあって。自分の色を消していこうと思っていた」
自分の名前が目立たないようにと“潜伏”したこともある。面白いものを作っても、名前を出した個人ブログ「hbkr」(ハバカリ)ではなく、匿名の「ikenie.com」で発表したことも。あらゆるサイトのロゴを「肉のハナマサ」デザインに変えられる「Logo Hanamasize」や、ハスの実がただグルグル回るだけの気持ち悪いサイトなどをこっそり公開していた。
1つのことを深掘りするのが苦手で、いろんなことに興味が向く。ITだけでなく、アート、アパレル、出版、カフェ……。ペパボで培った経験と能力を、ほかの分野で試してみたいという思いもあった。
「僕は経営に向いてない」。そんな風にも思っている。「株主総会とか株主説明会は病んじゃうぐらい緊張して、前後1カ月ぐらい精神的に引きずる。脇汗とか、すごいんです。うちは適材適所でやってきたし、経営は得意な人がやった方がいい」
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