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IT社長からカフェオーナーに ペパボ創業者・家入一真氏のいま(2/2 ページ)

» 2010年04月07日 14時50分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 次期社長に選ばれたのは、2003年に新卒で入社し、経営面を引き受けていた、副社長(当時)の佐藤健太郎(ケンタロ)さんだ。

 社外との交流や発信が好きな家入さんとは対照的に、佐藤さんはいつも、会社の中を見てくれていたと評価する。「社内で面白い企画を考えたり、社員の誕生日を祝ってあげたりとか。ケンタロは、内向きのイベントを考えてくれてた」

画像 クワガタのかぶりもので“キャラ立て”する佐藤さん

 「いいと思うし、応援するよ」――社長を辞めたいという家入さんの思いを、佐藤さんは素直に受け入れてくれたという。「『わがまま言ってごめん』と謝ったら、『社長にわがままをさせるために俺はいる。いつまでもわがまましてくださいよ』と」

 佐藤さんは今年に入り、クワガタのかぶり物をしてほぼ毎晩Ustreamに登場するなど、“クワガタキャラ”を押し出している

 「ペパボには僕の色があって、ケンタロは悩んでいたと思う。その中で1つの答えがクワガタなのでは。かぶりもの文化のなかったペパボで、あえてかぶりものをしてきたのは考えた結果で、分かってやっていると思う。周りからは『何やってるんですか』と言われるけど、生温かい目で見守っていきたい」

 2人は「長年連れ添ったお笑いコンビのような仲」だという。

「社員食堂的なものを作りたくて」始めたカフェ

画像 ハイスコア・キッチンのWebサイトはペパボテイストだ

 カフェ経営を始めたのは、ペパボ上場半年前の08年5月から。「満腹できる料理と穏やかで刺激的な空間」をテーマにした「ハイスコア・キッチン」を、渋谷駅近くにオープンした。ペパボオフィスから徒歩5分。「社員食堂的なものを作りたかった。うちの社員がランチで使ってくれればペイすると思って」

 ネットと比べ、カフェはビジネスとしてのうまみは薄いという。「ネットビジネスは売り上げが青天井だが、カフェは客単価×回転率×テーブル数で売り上げのマックス値が決まる」から。だがその違いが面白い。「カフェはスタッフの人間力の勝負、というのも新鮮」

画像 一面ガラス張りで目黒川を一望できるラウンジ ie

 デザインや見せ方にこだわった店。ネットで培ってきた自分のセンスが外の世界でどこまで通用するか、試してみたかった。「僕がやる以上、かっこ悪いのは作りたくない」

 ハイスコア・キッチンは利益を出し続けており、最初のチャレンジは成功している。その後、古民家を改装したレストラン「iri 入」を代々木上原に、カフェ「ラウンジ ie」を中目黒にオープンするなど6店舗を経営。カフェとアートギャラリーを併設した施設をつくる計画も進めている。

ネットとカフェで「文化の発信を支えたい」

 支えている思いは、ネットビジネスもカフェ経営も同じだ。

 「カフェはご飯を食べる人もコーヒーを飲む人もミーティングをする人もいるフラットな場所で、その上でいろんなものが動く。そういう意味では、レンタルサーバもカフェも同じ」

 例えばある時、ハイスコア・キッチンでご飯を食べていると、隣に座った見知らぬお客さんが「このカフェいいね」と話していた。「ちょっとすごいな、と思って。この会話が生まれたのはこの場所があったから。それに関われたことがうれしい」

 「場を作ると、その上でいろんなものが動く」――そう気付いたきっかけが、インターネットだったという。

 例えば、急に売れ出したアイドルのサイトが、ペパボのレンタルサーバ「ロリポップ」で作られていたらうれしくなる。「サイトでロリポの名前は前に出ないし、エラーページぐらいでしか分からないけど、そういうものを裏で支えているんだなって」

 「場所を用意して、そこで各自がいろんなことをするのを下で支えるのが好き。大それたことを言うと、文化を創る裏側を支えて行けたら面白い」

ITとほかの業界をつなげたい

 手持ちの自社株を一部売り、手元にお金ができたが、「車も家も興味がないし、個人で欲しいものは何もない」。

画像 07年〜08年にまたがる5カ月間のダイエットで80キロから56キロにやせた。ペパボ社内で始めたダイエット勝負がきっかけで、やせるのが楽しくなったという。洋服はサイズが合わなくなって3〜4回捨て、歩くのが楽になったそうだ

 資金は、カフェ経営やベンチャー投資に回しているという。IT系やアパレル、PR企業などさまざまな分野に投資。いくつも寄せられる出資案件のうち、クリエイティブ面などで協力したり、一緒に面白いことができそうな会社を選んで出資している。

 「ベンチャーを応援したいという思いがずっとあった。自分が福岡で起業したとき、何をどうしたらいいかも分からなかったが、いまなら起業のアドバイスもできる。いろんな業態に興味があって、いろんなことをやりたい。最終的に、すべてが1つのラインにつながればいい」

 さまざまな業態に手を広げながらも、IT関連で知り合った人たちやペパボの社員も大事にしていきたいという。ITの知り合いや友人がカフェを使ってくれ、ネットにはない何かを見つけてくれるのもうれしい。

 「家入さんがIT発でいろいろな場を作ってくれたから、僕らはそこに行っていろんな刺激を受けることができる。好き勝手やればいいよ」――アジャイルメディア・ネットワーク社長の徳力基彦さんが言ってくれたこんな言葉が、心に残っている。

 飲食や出版業界には、ITを毛嫌いしている人も少なくないという。「ITだからといって切り分けて考えず、うまく使えばいいのにと思う。そこをつなげられるのが、IT出身の僕なんじゃないか。挑戦してみたい」

「ゲーム作ってるらしいよ、1人で」って言われたい

 しばらく冷めていたネットサービス作りへの情熱は、iPhoneやmixiアプリの流行で再燃している。「新しい技術が出てくるときに乗っかるのが好き」。AndroidアプリやiPhoneアプリを作ろうと、参考書を読みながらコーディング中。「foursquare」の流行に乗ったGPS連動アプリも作ってみたいし、mixiアプリは既にいくつか作っている。

 アイデアはいろいろある。例えば、ごみ箱に捨てたデータを、その場所に来た誰かが拾えるようなGPS連動アプリ。「自分にとっていらないものは、他人にとっては宝物かもしれない。見終わったエロ動画とか……。特定の場所でしか拾えないアイテムを提供すれば、プロモーションにも使ってもらえるんじゃないかな」

画像 耳かき デッド オア アライブ

 ブログパーツが流行していたころ1人で作った、リアルタイムにひよこのヒナのふ化数を算出・表示する「ひよこティッカー」や、某大スターの還暦までカウントダウンをする「秀樹カンレキ!」などは、mixiアプリ版も作ってミクシィに公開申請したが、「『継続性がない』と却下された」と笑う。

 最近は、マッチョな彼の耳かきをしてあげるという設定のmixiアプリ「耳かき デッド オア アライブ」を開発。カフェ経営を生かしたアプリ「レストランシティ」の構想も温めている。「久しく手を動かしていなかったので面白くて、寝ないで作り続けてる。『あいつ、社長退任して何やってるんだ』『ゲーム作ってるらしいよ、1人で』って言われたい」

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