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チームと球団の一体化を 横浜DeNAベイスターズの業務改革プロジェクト

» 2012年07月18日 09時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 プロ野球はオールスターゲームを間近に控え、今シーズンの前半戦もいよいよ大詰めを迎えている。プロ野球の人気低迷が叫ばれる中、今年新たに球界に加わった横浜DeNAベイスターズでは、試合の内容に応じてチケット代金の返金が依頼できる「全額返金!?アツいぜ!チケット」や、スタジアムでの応援合コンなど、ファンサービスの一環としてユニークな企画を次々と打ち出している。

 そうしたイベントの企画運営から球団経営そのものまでを下支えしているのが、ベイスターズの球団事務所である。このたびの親会社の移管に伴い、球団事務所でもさまざまな業務改革に取り組んでいる。本稿ではその改革の一部をお伝えする。

IT企業水準のインフラ基盤を整備

横浜DeNAベイスターズの球団事務所 横浜DeNAベイスターズの球団事務所

 現在、球団事務所は100人強の職員が働いており、大きくはスカウトやスコアラーなどチーム運営にかかわるチーム統括部、営業、チケット販売など球団事業にかかわる事業本部、そして管理本部、広報部、社長室兼地域貢献室、といった組織体制で運営されている。

 その球団事務所は、横浜DeNAベイスターズの本拠地である横浜スタジアムから徒歩3分とかからない立地にオフィスを構える。現在の場所に移転したのは1999年。ベイスターズが日本一になった翌年のことだ。その後、親会社が3度変わりながらもこの場所に根を張り続けてきた。

 昨年末にディー・エヌ・エーによる球団買収が決まってから、新球団はさまざまな事業改革を推進してきた。その中で、オフィスについても、2011年12月にプロジェクトを立ち上げ、年明けから本格的な取り組みをスタートさせた。

 まず取り組んだのがITインフラの整備である。それまで、業務でITを活用する機会はほとんどなく、例えば、スタッフ同士、あるいは外部とのコミュニケーションは電子メールではなく電話やFAXなどが中心だったため、業務範囲が狭く、情報共有が不足しており、営業活動の重複や物事の進め方に時間がかかってしまうなどが問題点だった。また、ネットワーク環境やデータのバックアップ環境も不十分だという課題認識があった。

 そこで、DeNA本社と同じ水準のIT環境を目指し、無線LANの設置、サーバの高速化および冗長化を行ったほか、メールやカレンダー、文書ソフトなどの機能を持つクラウドサービス「Google Apps」を導入。その結果、情報共有におけるスタッフ間のカベがなくなることで意思決定の速さが格段に上がり、よりスピード感を持ってファンサービスなどの企画を実現できるようになった。加えて、職員にはスマートフォンや高速データ通信サービス「Xi(クロッシィ)」を配布し、社外からでもメールなどにアクセスできるようにすることで、さらに情報のシェアスピードを向上させている。

 社内イントラのポータルサイトも構築し、部門のカベを越えた事務所全体での情報共有が容易になった。いわゆる各個人の仕事の「見える化」が進む結果となった。

エコで快適な職場作りを

 併せて取り組んでいるのが、オフィスの「ペーパーレス化」だ。上述したように、球団事務所では、これまで外部とのやり取りはFAXや郵送で行われることが多く、社内の決裁も稟議書を回覧するなど、紙による業務が中心だった。当然のように、大量の紙を使用するため、エコでないだけでなく、情報伝達や意思決定にも時間がかかっていた。

オフィス改革後の事務所エントランス オフィス改革後の事務所エントランス

 そこで、オフィス改革にあたり、不用な複合機やプリンタを集約し、印刷するにはカード認証を必要とする仕組みの導入を検討。FAXの送受信もデジタル化し、複合機やPCで確認、最小限必要なものだけを紙に出力する。そのほか、稟議書をITのワークフローに変更したり、会議室へのプロジェクター設置や紙データのPDF化などをしたりすることによって事務所内のペーパーレス化を推進しようとしている。これによって、年間の大幅なコスト削減を見込むとともに、職員のコスト意識の向上も期待しているという。

 ハード面も大きく手を加えた。これまで会議室が少なく、応接室を含めて3つあるだけだった。そこで、会議室を8部屋に増設するとともに、プロジェクターを導入し、ITを使ってスピード感を持った情報の共有を図りつつ、しっかりとした議論やミーティングができる環境を実現した。

 また、執務エリアの入り口にセキュリティゲートを設けたり、社内はフロア全体が広く見渡せるように無駄な備品を処分したりするなど、安心、安全なオフィスのための配慮も行った。

ファンのための改革

 こうしたオフィス改革による目に見える効果として、球団職員やチームの裏方であるトレーナー、マネジャー、スコアラーなどの情報共有が進み、球団全体の一体感が醸成されつつある。

 横浜DeNAベイスターズは今シーズン、「継承と革新」を球団テーマに掲げており、今回のオフィス改善も革新のための取り組みの一環だという。「その根底にあるのは、ファンの方々に満足してもらうために、話題を作り、楽しい場を提供し、チームが強くなることであり、それらをスピーディーに実践する基盤づくりの第一歩が今回の取り組みなのだ」と担当者は力を込める。

 今後は、チケット管理やカスタマー管理といった、より球団運営の根幹にあたるシステムの改革に取り組んでいくことで、さらにファンの満足度を高めていくとともに、強いチーム作りをフロントおよびバックエンドが一丸になって推し進めていく。改革はまだ始まったばかりだ。

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