先週この連載「Googleさん」でご紹介したGoogle社内に出回ったダイバーシティに反対する文書をめぐるあれこれが、その後ごちゃごちゃになってきています。
とても整理しきる自信はないのですが、とりあえず「いまここ」について紹介してみます。
7月にある男性エンジニア(その段階ではまだ社外には名前が知られていませんでした)が、「Googleがダイバーシティに力を入れているのは会社にとって不利益だ。なぜなら男女は生まれながらにして違うものであり、女性は協調性があってストレスに弱いのでコーディングには向かないから、無理にエンジニアとして雇うべきじゃない」という趣旨の文書(できれば全文を読むといいです)を社内コミュニティで発表し、それについて8月になって複数の従業員がTwitterなどで問題にしたため記事になり、世間の注目を集めました。
全社員向けにすぐにメッセージを送ったのはダイバーシティ担当副社長のダニエル・ブラウンさん。文書には問題はあるが、自由に発言する機会は会社として守る。ただし、行動綱領に違反したらだめ」とし、話し合っていこうと言いました。
ここまでが前回のあらすじです。
Googleがダイバーシティに真剣に取り組んでいるのは本当です。上記のブラウンさんも、そのために米Intelから引き抜いてきました。2014年から毎年、性別、人種別の従業員比率を発表し、その是正のために毎年数億ドル投じています。
それでもなかなか偏りは消えません。男女は生物学的に違うのだからそれは当然だ、とダモアさんに賛同する人もいますが、黒人とヒスパニックが白人より圧倒的に少ないことについては説明がつきません。
米労働省も、「Googleは女性従業員の給与を男性より低くしている」と言ってます。これはこれで長い話(ご興味のある方はこちらをどうぞ)で、Googleは「そんなことはない」と主張していますが、労働省の発言は、2015年からずっと調査してきた結果に基づくものです。
Googleは認めていませんが、この文書を書いたエンジニアのジェームズ・ダモアさんは解雇されました。
スンダー・ピチャイCEOの全社員向けメッセージには、解雇したとは書いてありませんが、例の文書は「行動綱領に反し、性別に関する有害な固定観念で職場における一線を超えた」とあります。
シリコンバレーの事情通、Recodeのカーラ・スウィッシャーさんによると、ピチャイさんは文書が公開されてすぐに多くの幹部の意見を聞き、真剣に話し合ったそうです。ダモアさんの解雇は、ダイバーシティと言論の自由のバランスを考えた末の苦渋の決断でした。
Googleがダモアさんを解雇したことで、オルトライト(白人ナショナリズム的右翼)が乗り出してきてしまいました。
右翼的な番組を配信しているカナダのアクティビスト、ステファン・モリノーさんがまず8日に、ダモアさんのインタビューを(皮肉なことに)YouTubeで公開。
Googleのためを思って文書を発表したのに、解雇されてGoogleに裏切られた気分だと語るダモアさんに対し、モリノーさんは君は正しい、Googleがおかしいと理解ある親戚のおじさんのように励ましています。
ダモアさんは、Googleのダイバーシティへの取り組み方は間違っていて、それに気づかないのは「エコー・チャンバー」のせいだとしていますが、ダモアさんこそ、こうした支持者の励ましに包まれて、どんどん「自分は正しい。そんな自分を解雇したGoogleは間違っている」という気持を強めていっているように見えます。
このインタビューの後、Bloombergもダモアさんへのインタビューを放映しましたが、モリノーさんとのインタビューのときよりさらに自信を持って受け答えしているように見えます。
8月9日に、YouTubeのスーザン・ウォジスキCEOがこの文書についての意見を米Fortuneに寄稿しました。
この人は、ものすごく昔からGoogleにいます。なにせ、共同創業者のラリー&サーゲイに自宅のガレージを貸していたくらいです(サーゲイの元妻は妹)。
ピチャイさんからこの件について早くから相談を受けた幹部の1人でもあります。
「私は多くの人々からサポートしてもらえる会社で働けてラッキーですが、テクノロジー業界での自分の経験を振り返ると、テクノロジー職やリーダー職に女性が少ないのは生物学的な理由があるという考えが染み込んでいると思います」と語り、例えば「社外の人と打ち合わせすると相手はまず自分より下位の男性に挨拶するし、意見を言うと遮られるし、自分のアイデアは男性に代弁してもらうまで無視される」と。
この文書を読んで、テクノロジー業界のジェンダーギャップの根深さ、それをなんとか覆そうという努力、新世代にもまだこうした根拠のない偏見があることの悲劇を思ったそうです。
ブラウン副社長が「みんなで話し合おう」と言ったように、Googleは10日にこの件を話し合うための全社ミーティングを開催する予定でした。
ところが、ピチャイさんはミーティングをキャンセルすることにしました。
ダモアさんの文書に公の場で反対した複数のGoogle従業員が、オルタナ右翼の攻撃にさらされたからです。
オルタナ右翼の人が、反対を表明した人の顔写真や本名、Twitterアカウントをまとめて「こいつらがダモア文書を批判した」とFacebookページで公開すると、その人たちにTwitterでの嫌がらせが殺到したのです。
ピチャイさんはミーティング中止を知らせる従業員宛のメッセージで「皆さんのすべての意見は重要で、私は意見のすべてを傾聴したい」とし、「(困難な時だけれど、こんな時こそ)Googleとしてわれわれ全員を1つにしているものを忘れないようにしよう。人々の生活に大きな違いを生み出す偉大な製品を作るという目標だ。われわれにはそれができる」と語りました。「Stay tuned(つづく)」と締めくくっています。従業員を危険にさらさずにできる話し合いの場をこれから用意するつもりなのでしょう。
これを書いている途中で、ダモアさんがWall Street Journalに「なぜ私はGoogleに解雇されたのか」というタイトルの文章を寄稿しました(この記事の最初の画像)。この問題はまだまだ続きそうです。
【Update】ダモアさんがTwitterアカウントを作りました。「@Fired4Truth」(真実のために解雇された)というアカウント名です。プロフィールにあるリンク先には、例の文書が掲載されています。
参考資料
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