鳥海准教授 ディープラーニングの本来の目的である「自動的に特徴量を抽出すること」は「人狼に勝つこと」そのものには向いてないと思います。そもそも勝つための道筋が決まってないので、戦術的な所ではあまり使える場面は多くないんじゃないかと思います。
不完全情報ゲームという所だけにフォーカスするとディープラーニングで「AlphaZero」みたいに強くなるのかもしれませんが、そこには興味がないです。人狼知能プロジェクトでは「強い」より「面白い」を目指しているので。
―― 「面白いAI」とはどんなものですか。
鳥海准教授 なかなか難しいのですが、まず「面白いプレイとは何なのか」を考えます。圧勝する、大逆転がある、華麗なプレイをするなど、いくつかパターンがありますよね。
そして、人狼というゲーム自体の面白さとは何なのか。相手をだます、自分の推理が当たる、相手を信じたり説得したりする、実は「きれいにだまされること」も人間は結構好きなんじゃないかとか。人を楽しませるAIを研究することは、人間を知ることにもつながります。
―― 人間が「面白さ」や「楽しさ」を感じる理由を分析している。
鳥海准教授 少なくとも、これはディープラーニングとは全然違う種類のAIの話。私はそもそも「ディープラーニングは人工知能なのか?」と思っていて。名前は人工知能だけれど、知能じゃなくて高度な機械学習ですよね。“真の人工知能とは何なのか”というのは難しい問題。
―― 今は、「AlphaZero」などが話題になったこともあり、人工知能=ディープラーニングという文脈で語られることも多いです。
鳥海准教授 人工知能=ディープラーニングみたいになるとちょっと違うなと。今のAIは狭い所に落とし込まれている感じがあるので、そことは違う方向性があるというのをもっと広い視点で捉えてもらうといいかなと思います。
―― では、ディープラーニングが使える場面はあったりしますか。
鳥海准教授 人狼の場合、対面でプレイするときに人間の表情や話者の認識などに使えそうです。音声認識、自然言語処理、会話文の生成といった所には使われてくると思います。世の中的にも、ディープラーニングを中心とした今の技術が発展していくことで、自動運転車だったりいろいろな所で役に立っていきます。
―― 今のAIブームについて思うことはありますか。
鳥海准教授 よくドラえもんみたいな「強いAI」(人間のように知性や自分の意思を持つAI)について議論されますが、リニアモーターカーもできたし、そろそろ「どこでもドア」について議論しようぜって言ってるような気がしてならない(笑)。
―― AIへの理解度が人によってまちまちなので、話が飛躍してしまうこともあります。
鳥海准教授 AIは皆さんが怖がっているような、世界を滅ぼすとかそういうものではないです。今、世間で言われているようなものって本当に人工知能なのかなと結構疑問に思っている人はいますね。高度に見えるとAIだけど、慣れてくると「自動化」と言われたり。
―― ニュースを見ても、毎日AIや人工知能という単語を目にします。
鳥海准教授 「自動ブレーキ」が良い例で、ちょっと前だったら「AIブレーキ」なんて言っていたのかなとか。AI搭載をうたう家電も、例えば温度を測ってフィードバックをかけてるだけの炊飯器などはAIとは言えません。
研究者たちは、あと2年くらいしたらまた(AIの)冬の時代が来ると言ってます(笑)。リニアモーターカーも日常になると目新しさがなくなり、未来の技術じゃなくなるので。ちょっと前だと「ビッグデータ」がそんな扱いでしたよね。
── AIがどんどん発展していき、いずれ私たちにとって当たり前の存在になっていくと。AIと一緒に人狼をプレイできる日を楽しみにしています。
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