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「政府を頼れない」 海賊版サイト遮断、苦悩するISP業界団体(2/2 ページ)

» 2018年04月23日 11時46分 公開
[片渕陽平ITmedia]
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 JAIPAの野口理事は「通信の秘密が、ISPなど事業者の権利と誤解されている。ISPが『通信の秘密を盾にしている』というが、そもそも国民の権利だ』と強調する。「ISPなど事業者は、通信の秘密を守るという役目を国と約束してきた。今回のブロッキングは、そうした考えと相いれず、しかも“政府から言われた”もの。法への国民の信頼を裏切ることにならないかと心配している」(野口理事)

「年間二千数百万のコスト」

photo インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)の丸橋透理事

 ISPが海賊版サイトへのブロッキングを行うとなれば、背負うものは法的リスクだけではない。既にISPによるブロッキングは、児童ポルノサイトを対象に行われているが、ICSAの丸橋理事は「(ICSAは)年間二千数百万のコストを掛けている」という。

 丸橋理事によれば、児童ポルノサイトへのブロッキングの流れはこうだ。まず違法サイトの通報を受けるインターネット・ホットラインセンターからの情報に基づき、遮断するサイトのブラックリストを作成。ブロッキングする前に違法なコンテンツが削除されたサイトをリストから除外したりと細かい運用をしながら、週単位でリストを更新していくという。さらに第三者委員会が運用実態をチェックし、改善するという取り組みも行う。

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photo NGN IPoE協議会の石田慶樹会長(兼 日本DNSオペレーターズグループ代表幹事)

 NGN IPoE協議会の石田会長は「正しいリストをいかにリアルタイムに更新するかは、ISPにとって負担になる。リストを精緻に作っても、オーバーブロッキング(違法ではないサイトをブロッキングしてしまうこと)やブロッキング漏れが起きる可能性もある」と指摘する。一方、閲覧するユーザーには、ブロッキング対象のサイトにアクセスした場合に代わりの内容を表示する仕組みを用意し、つながらない理由の説明を求められた場合に対応するカスタマーサポートの体制を整える必要もある。

 「こうしたアディショナルな費用は、ISPにとって地味にダメージになる。ISPのサービスは固定料金なので、ブロッキングに費用がかかっても売上が増えるわけではない。むしろ費用負担が増えるとき、事業者が判断の妥当性を株主へと説明できるかというと、その強靭さはないだろう」(石田会長)

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 JAIPAの野口理事は「ユーザーからすると、ISPが一括に何かを行うのは『権力がある』ように見える。自主的にISPがユーザーの通信に首を突っ込むのは難しいという気持ちを新たにした」と話す。「ブロッキングがより精緻になるほど、ユーザーから見ると気持ち悪いブロッキングの仕組みができ、ISPなどネットワークの中間者が信じられなくなる」と恐れている。

 立石副理事は、緊急対策としてのブロッキングに限らず「立法にすら反対する」と主張。立石副理事によれば「ユーザーの過半数がサイトブロッキングに賛成している」とのアンケート調査結果もある。「ユーザーの多くが、通信の秘密という自分の権利が侵害されているとは思っていない、ブロッキングとは無関係と考えているからだ」(立石副理事)

 野口理事は「SNSなどでは、運営がアカウントを凍結することがあるが、ISPはそう勝手にはブロッキングはできない。通信の秘密を理解してもらい、国民を巻き込んで問題への対策を議論するプロセスを生むことが重要」と訴えた。

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