月から地球に飛来した「月隕石」から、生成に水が不可欠とされる鉱物「モガナイト」を発見したと、東北大学学際科学フロンティア研究所の鹿山雅裕助教ら共同研究チームが5月7日に発表した。月の地下に大量の氷が眠っている可能性もあるという。
月における水の存在は、米国航空宇宙局(NASA)の無人探査機「エルクロス」などが確認している。月周回衛星による観測も行われているが、月面から深さ1メートル程度までの情報しか得られず、それより地下に水があるかどうかについては手掛かりが得られていなかった。
研究チームは、月に衝突した巨大天体の影響で宇宙空間に放出され、地球に飛来した月隕石に注目。13種類の月隕石の成分を分析したところ、「NWA2727」と呼ばれる月隕石から鉱物の「モガナイト」を発見した。
モガナイトは二酸化ケイ素を主成分とする鉱物で、高い圧力条件でアルカリ性のケイ酸水溶液から沈殿してできることが分かっている。沈殿反応には水が不可欠であることから、水に乏しい地球外の天体では決して存在しないと考えられていた。今回の発見は、地球外の物体からモガナイトを検出した初の報告例だという。
NWA2727は、構成する元素(カリウム、リン、希土類)の比率が、「うさぎの体」(月の表面をモチをつくうさぎに見立てた場合)に当たる月の「プロセラルム盆地」表面の成分比率と一致することから、プロセラルム盆地に巨大天体が衝突したことにより地球に飛来したと考えられていると鹿山助教は話す。
これらを踏まえ研究チームは、月への水の供給プロセスからNWA2727が地球に飛来するまでについて以下のようなモデルを考案した。
(0)プロセラルム盆地で月隕石の母体となる岩体がマグマから固化(約30億年前)
(1)アルカリ性の水に富む「炭素質コンドライト」(※)がプロセラルム盆地に衝突(27億年前以降)
(炭素質コンドライト:太陽系創生時や太陽系形成前の情報を保持している隕石グループの総称)
(2)衝突で形成したクレーターの内部に月の地殻や炭素質コンドライトの破片が集積、その表面から底部では水を捕縛
(3)捕縛された水は太陽光で熱せられた表面(最大117〜126度)では蒸発してモガナイトを沈殿、地下数メートル以深やクレーターの影などの低温環境では氷として残存(1億3000万年前?)
(4)巨大天体の衝突でクレーターを構成する岩石の一部が宇宙へ放出(100〜3000万年前まで)
(5)宇宙を漂った後に地球の北西アフリカにある砂漠に月隕石として落下(1万7000年前)
モガナイトの生成条件から、プロセラルム盆地の岩石の水分量を計算したところ、少なくとも1立方メートル当たり18.8リットル以上の水が存在するとしている。このことから、月の地下には大量の水が氷として眠っている可能性があると研究チームは指摘。
これほど大量の水が月で報告された例は、極域以外では初という。研究結果は、オープンアクセスジャーナルの米国科学誌「Science Advances」に5月3日に公開された。
研究チームは今後、未調査の月隕石や月の試料に対して分析を行い、そこから水や氷の痕跡を探る研究を予定している。
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