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海賊版より魅力的なサイトを 一歩先行く「アダルトコミック業界」に学ぶ(3/3 ページ)

» 2018年05月09日 06時00分 公開
[村上万純ITmedia]
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きみさん 美少女コミック研究家の稀見理都(きみりと)さん

 稀見さんは、「エロ漫画はコミケなど同人文化と並行してやっている特殊な世界」と話す。同人誌の世界では「dropbooks」(ドロップブックス)という大手海賊版サイトがある。「同人誌の場合、違法サイトと個人で戦わないといけない。海外配信や削除サポートなどをするエージェントの需要はありそうだ」(稀見さん)

これからの出版社、漫画家はどうなる

 出版社横断の大規模な漫画ポータルサイトを作る場合、日本市場だけをターゲットにするとマネタイズは難しいかもしれない。

 イベントでは、フリーランス編集者で「マガジン航」編集発行人の仲俣暁生さんが「機械翻訳の技術も進んでいるし、日本での発売と同時に公式の翻訳版も海外に同時配信するくらいじゃないと厳しいのでは」と語った。国によってポルノ表現に関する考えや法解釈も異なるため、国産プラットフォームでコントロールするのが望ましいだろう。

 元出版デジタル機構会長の専修大学 植村八潮教授は、「従来の出版社の役割をITでどう代替するか、その仕組みを考えるのもいいかもしれない」と話す。

植村さん 元出版デジタル機構会長の専修大学 植村八潮教授

 植村教授は、かつて出版デジタル機構会長として各出版社の著作物をデジタル化する活動に全力を注いできた。「オールジャパンでやれないかと思い、中小企業も乗っかってこれるような電子書籍プラットフォームを作りたかった」とし、「各社との調整作業が大変で、もう1回やれといわれても無理なのでやりたくない」と苦笑しながら当時の苦労を振り返った。

 今でも電子書籍は紙の本と同時発売されなかったり、そもそも電子化されていなかったりするベストセラーも少なくない。契約形態、制作・流通システムの違い、電子化のコストなど複数の問題が絡み合っているのも一因だ。国内では多数の電子書籍サービスが登場し、閉鎖していった過去もある。

 Komifloが言うように、海賊版サイトがなくても漫画産業自体が変化している以上、出版社や漫画家は変革を余儀なくされている。電子書籍を容易に「セルフパブリッシング」(個人出版)できるAmazonのKDP(Kindle Direct Publishing)を試みたり、自ら無料電子漫画サービスを運営したりと、自ら模索を続ける漫画家たちも多い。

 そんな中、赤松健さんがNHKの番組「クローズアップ現代+」出演直後の4月18日に、Twitterで「海賊版に勝てる画期的な解決法」とし、「出版社と作者が共同で漫画村(のような仕組み)を作り、収益を両者に正しく分配するシステムの実証実験を行う」とツイートした。

 詳細はまだ明かされていないが、「海賊版データを乗っ取り、20年以上にわたるイタチごっこに終止符を打つのが目標」としている。自らも絶版本などを集めた無料電子漫画サービス「マンガ図書館Z」を運営する赤松さんは、海賊版サイト問題をどう捉えているのか。

 ITmedia NEWSでは赤松健さんへのインタビュー記事を近日公開する予定だ。

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