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メディアの変化で「音楽コンテンツの命」はどう変わったのか(3/3 ページ)

» 2018年06月21日 07時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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ストリーミング・ミュージックで新たな収益化の時代に

 そして、「回転率」の効果は、ストリーミング・ミュージックの時代になってより顕著に表れるようになる。

 ストリーミング・ミュージックでは、事実上、「気になる楽曲が選び放題」になる。ダウンロード販売までは「自分のライブラリーに含まれる曲」だけが再生対象だった。YouTubeの時代になって「自分がもたない曲」も聴けるようになったが、古い曲の場合、YouTubeにあるのはやはり「海賊版」になってしまう。しかし、ストリーミング・ミュージックの場合、音楽出版社はきちんと再生回数に応じた収益を得られるため、古い楽曲もカタログに入れるようになっていった。入れない理由がないのだ。

 この変化は、ストリーミング・ミュージックの初期にはあまりなかった。なぜなら、2015年くらいまでは、ストリーミング・ミュージックも広告による無料モデルが基本で、YouTubeと収益が変わらなかったからだ。しかし、2015年以降、音楽業界からの突き上げもあり、ストリーミング・ミュージックは「有料サービスを軸とする」方向に変わった。このことは、音楽産業に明確な変化をもたらす。YouTubeより高い(といっても、Spotifyなどの場合で、1再生あたり0.4円と言われている)収益が得られるようになったからだ。有料ストリーミング・ミュージックに本気で楽曲を提供すれば、単純再生でも、YouTubeの数倍の収益がある。しかも、YouTubeとちがって「とりっぱぐれ」がないので、古い楽曲からもきちんと収益が得られる。音楽出版社からみれば、「安価ではあるが、ようやく新たな収益源が現れた」形になったのだ。

photo 聴き放題音楽サービスYouTube Musicを始めた

 聴き放題であるストリーミング・ミュージックでは、プレイリスト再生が基本だ。その中に入るのは、なにも「新曲」だけとは限らない。むしろ、「新曲のプレイリスト」を選んで聞かない限り、過去に発表された楽曲も混ぜて再生されるのが基本である。

 そうするとどうなるのか?

 聴き放題であれば、「聞いたことがない曲」を聞くことにも頓着しなくなる。その結果、プレイリストが提供してくる「聞いたことがない曲」を、新曲のように受け止めるようになるのだ。ユーザーにとっては、新曲であるかどうかは関係ない。「新鮮な曲」であればいいのだ。

 こうなると本格的に、「過去に作られた名曲」と「新たに作られた曲」が並列に競争することになる。大量に曲を作っていて、成功したアーティストにとっては有利だが、まだ評価の定まっていない新人には厳しいモデル、ともいえる。

 SNSが主要なメディアになった現在、情報の流通スピードは速くなった。だから、「楽曲の流行り廃り」もその影響を受け、速くなっている。

 だが、メディアの報道やSNSにうかんで来る楽曲のほとんどは、「新たに作られ、プロモーションにのった曲」といえる。新曲が新曲でいられる時間は短くなったが、それを感じるのは、新曲を追いかけるメディアの側である……とも言える。

 楽曲の回転数はビジネスの命になった。結果、「新曲の命」は短くなった一方で、過去の曲が掘り出され、回転して収益を生み出す確率もあがっている。「売り切り」時代とはまったく異なる振る舞いをしているのだ。

 この形からどのようにヒット曲が生まれるのか、そして、どうヒットさせていくのか。現在、その方法論が試されており、観察するには面白い時代になった……といえそうだ。

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