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見えてきた未来の流通 陸海空それぞれの「物流革命」特集・ITで我慢をなくす「流通テック」

» 2018年07月05日 13時00分 公開
[村田朱梨ITmedia]

 生産者と消費者を結び付ける流通は、これまで多くの人の手によって支えられてきた。それが今、テクノロジーによって変わりつつある。例えば再配達や長時間労働などさまざまな問題が話題になった宅配では、小型無人機(ドローン)など人の手を頼らない手法も検討されている。一方、あまり表には出てこないものの、生産者や販売者の拠点を結ぶ大量輸送の分野でもテクノロジーを活用した「物流革命」が進んでいた。陸海空、それぞれの動向を紹介しよう。

実用化に向けて動き出すドローン配送

 ドローン配送には配送にかかる時間やコストの削減などのメリットがあり、過疎地域や山間部での配送手段としても期待がかかる。海外では米Amazon.com、国内では楽天などが試験的に導入を進めている。主に消費者に至るラストワンマイル(消費者に届くまでの最後の区間)のギャップを埋める目的がある。

photo 楽天のドローン配送「そら楽」

 一方で国はドローン配送のインフラ作りにも取り組んでいる。国土交通省では2017年2月に神奈川県でドローンの離着陸や荷物の積み卸しを行うドローンポートの機能検証実験を実施。現在はドローン配送の本格化に向け、実証実験を行える地域の公募なども行っている。

photo 物流へのドローン活用のイメージ

 しかし、小型無人機が一度に運べる荷物の量は多くない。実際に物流を支えている陸上や海上の運送であり、その効率化は大きな課題になっている。2017年7月に閣議決定された「総合物流施策大綱」では、トラックや船舶などにもIoTやAI(人工知能)といった新しい技術を活用して「物流革命」を起こし、サプライチェーン全体の最適化を目指すという。

無人トラックを引き連れて隊列走行

 陸の物流革命は、「トラックの隊列走行」による輸送の効率化だ。高速道路でドライバーが運転する有人トラックを先頭車両として、無人で自動走行する後続車両が隊列を組んで走行することで、ドライバー不足の解消や空気抵抗の減少によるトラックの燃費改善につなげる狙いがあるという。

photo トラックの隊列走行のイメージ(経産省、国交省の資料より)

 隊列走行には「CACC」(Cooperative Adaptive Cruise Control:協調型車間距離維持支援)という技術を使い、先行するトラックの制御情報を後続のトラックが受信。加速や減速を自動で制御して車間距離を一定に保つ。既にこの技術を使った有人トラックでの実証実験を2018年1月に実施しており、合流・分流時の不安や割り込みの発生などの課題も明らかになっている。

photo 新東名高速道路での実証実験の結果

 今後はこうした課題をふまえて2018年度中に積載条件を変更した実証実験などを継続する他、車線逸脱を防止する「レーンキープアシスト機能」を加えた実験も実施予定。2019年には無人で隊列走行を行えるシステムの実証実験を公道で有人状態で実施し、早ければ2022年に商業化する計画という。

海の自動運転「自動運航船」

 一方、海の物流改革で目指すのは、自動操船や自動離着桟などが行える「自動運航船」の実現だ。船上のセンサーや情報処理機能のみならず、衛星通信や陸上からの遠隔サポート機能などの周辺技術も含めた運航システムを構成。見張りや操船は基本的に自動化され、船員はシステムが下す判断を監督、承認する役割が中心となる。船員不足への対応や労働環境の改善の他、ヒューマンエラーに起因する海難事故とそれに伴う船舶の不稼働を防ぐ狙いがある。

photo 「自動運航船」のイメージ
photo 自動運航船の段階的発展(国交省の資料より)

 自動運航船には2つのフェーズがあり、まずは操船の判断支援機能をメインにした「IoT活用船」に取り組む。国土交通省では、IoT活用船と環境に優しい液化天然ガスなどの代替燃料に対応した「代替燃料船」を併せて「先進船舶」と呼称し、2025年に250隻まで増やす方針を明らかにしている。

 ラストワンマイルや再配達問題で注目を集める流通業界だが、大規模輸送もまた未来に向かって変わり始めている。

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