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» 2018年08月06日 08時00分 公開

「個別の11人事件」は現実に起こせるか 「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」のゾクっとする話アニメに潜むサイバー攻撃(2/7 ページ)

[文月涼,ITmedia]

F: 2nd GIGは、核攻撃を含む、第3次・第4次世界大戦を経て疲弊した2032年の日本が舞台です。復興のため安価な労働力として難民を受け入れている状況下で、米国が分裂して誕生した「米帝」(Imperial America)と早急に安保を結びたい高倉官房長官およびその指揮下にある内閣情報庁のゴーダと、長官とは異なる未来を思い描く茅葺(かやぶき)総理と公安9課(通称:攻殻機動隊)の対立を軸にストーリーが進みます。

 高倉長官とゴーダは互いにStand Aloneで直接は共謀していませんが、ゴーダはその目的を達するため、主として情報操作で暗躍。難民と国民の対立を煽り、難民を武装蜂起させます。そしてそれを根拠に、長崎難民居住区(通称:出島)への自衛軍の投入と安保の必要性を、国民に認めさせることをもくろみます。

photo (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

K: ふむふむ。

F: で、ゴーダがこの対立を煽るために繰り出した最初の一手が、コンピュータウイルスを使って、難民排斥を煽る「個別の11人」なる英雄を生み出すこと。彼いわく「革命の英雄をプロデュースする」行動の一手です。

 劇中のこの時代の人々は、ほとんどがマイクロマシンを脳に注入し、ネットワークに接続できるようにした「電脳」を持っています。この電脳をウイルスに感染させ、過激な個別主義者を生み出します。そして彼らによってテロを引き起こさせた上で自決させ、難民排斥の象徴的な存在に仕立て上げる。このウイルスは、おそらく特定の人物を狙うものではなく、いわゆるばらまき型ウイルスです。ただし発症条件があり、ゴーダにとって望ましい特定の傾向の人物を選び出し、テロリストに仕立て上げています。

K: ほう。なぜ特定の人物を狙った標的型ではなくて、スパムメールのようなばらまき型だと思われたのですか?

F: 劇中のゴーダのせりふに「こういう感染例もあるんだな」というものがあります。このせりふが、不確定要素があることを示唆していると受け取れます。

 9課の分析で、発症条件は(1)「五月革命」に身を投じた思想家、パトリック・シルベストルの著書「初期革命評論集全10巻」を読んでいること、(2)その初期革命評論集の幻の11冊目「個別の11人」を探し出して読んでいること――であることが分かります。

 ただ、最後にもう1つある発症条件が分かりませんでした。後に、9課のバトーがゴーダと対峙して問いただすと、ゴーダはあくまでも仮定として(3)義体化(※)以前に「童貞」であったことを挙げるのです。

(※)義体化……人間の体の一部を人工的な機械に置き換えること

 影響の濃淡はありましたが、これらに当てはまる人であれば、誰でも発症したわけです。この3つ目の要素に対し、バトーはゴーダを「人が悪すぎる」と非難するわけですが、ゴーダはアニメ史でもかなり有名な「かくいう私も童貞でね」というせりふをはいて場を去ります。

K: このせりふは、インターネット・ミームとして、さまざまな模倣をされましたね。主にギャグとしてですが。

F: そう。ギャグのように聞こえます。しかしこの3つの要素のチョイスは実に見事で、(1)はいわゆる革命家を夢見る中二病精神、あるいはヒロイズム、(2)は偏執的探究心、あるいは行動力、そして(3)は、女性に相手にされなかったことによるルサンチマン、ある種の恨みの念――とみると、見事、特定のベクトルの人物像が浮かび上がってきます。

 事実、ウイルスに感染し、ライブ中継で難民問題への非難と決起の演説をぶった上で自決を図る12人のうち、11人は一目でそれと分かる風貌をしていました。ただ、クゼだけは、革命への思いが人々への救済、つまり利己ではなく利他であったことと、童貞だった理由が飛行機事故による少年時代の義体化であったため、他の11人とは異なり、そのウイルスを分離することに成功し、その場を逃れます。

photo (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

 さて、ここまではコンピュータウイルス絡みの話ではありますが、サイバーセキュリティというよりは人物寄りの話ですよね。

K: はい。主従でいえばウイルスは従で、かなり特異な話ですよね。あまり現実には関係ないというか……。

F: では、私が気になったリアルの事件の話に参りましょう。

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