「ディープラーニングではない機械学習の手法を使っていて、昔ながらの人工知能とはいえるかも。人工知能という単語はあえて避けているのかもしれませんね」
「ディープラーニングを使っていない」と言うと、取材に来た人がガッカリしてしまう、という話も聞いたことがあります。実際、ディープラーニングを使った楽曲生成の研究も増えているようです。
深山さんは、台湾の中央研究院で人工知能による音楽の自動生成について研究するイースアン・ヤン(Yi-Hsuan Yang)さんに注目されています。「彼の研究チームは、人工知能を使ってどうやって音楽を作るか研究しています。最近の論文だと、ギター、ドラム、コードの伴奏を考慮しながら同時に音を作るということをやっています」ということで、一気にバンドっぽい音を作れるのだとか。複数人の役割を一気に1つの機械が担えることに驚きました。
自動生成と一口に言っても、どこにゴールを置くかで手段もだいぶ変わるようです。
「自動作曲でも、1つ1つの音を作る必要があれば作ります。短い各パートのフレーズなどのオーディオデータを組み合わせて1つの曲を作る『ループシーケンス』でも音は生まれます。そういうところが、あえて人工知能と言いたくない理由なのかもしれません。こうした手法はノウハウ集であって、必ずしも知能じゃないかもしれないなと」
日本で第3次人工知能ブームが起き、ディープラーニングが注目を集めてから5〜6年がたとうとしています。深山さんはそれ以前から長年研究を続けておられますが、どのような変化があったのでしょうか。
「5年くらい前は、こんな状況ではなかったですね。音楽は面白い研究対象なんだと思います。シーケンス(連続、順序)ですし、依存関係もあるし、しかも和音では同時進行もある。音楽が好きか嫌いかを抜きにしても、研究しがいがある対象なんだと思います。自分が考えた最強の人工知能をみんな試したいんじゃないでしょうか」
研究領域として、既にホットになっている節もある音楽の自動生成。ビジネス領域での展開はどれくらい可能性がありそうでしょうか。深山さんは、ある特定の研究領域においては「十分にやっていけます」と答えます。
「私自身がビジネスでもうけていないので説得力がないかもしれませんが(笑)。何種類も曲を作ってくださいって言われても、人間だと簡単にはできないでしょうし。実際、イギリスのスタートアップであるJukedeckは、音楽の自動生成でビジネスをしていますし、すごく音もいいですよ」
最後に、あらためて深山さんに音楽の自動生成を研究することの面白さについて尋ねてみました。しばらく考えた後、「音楽が好きで、情報科学をやっている人はぜひやるべきテーマだと思います」と答えられました。
「自分が持っている音楽の知識も使えて、音楽に新発見を与えるような感覚もあります。何より音楽という領域が学術的に面白い。もちろん物理も化学もかっこいいですけど、音楽という現象もなかなか手ごわくて楽しいですよ」
音楽は2000年以上の歴史がある中で、情報処理として捉える音楽の歴史はどれほどなのでしょうか。深山さんは「コンピュータの歴史と共にある感じです。今まさに勃興しているので、興味がある方はぜひ一緒にやりましょう」と呼び掛けます。
「純粋に、いろんな自動生成システムを見てみたいですね。最近の若い人は能力があるから、意外とシステム自体はすぐに作れちゃうと思うんです。自分で作ってみたら、ぜひ教えて欲しい。自動作曲で難しいのは、曲ができるかどうかではなく、使われ方の探求なんです。どんな文脈で自動作曲が使われるかが分かっていない状態なので、ぜひそこをディスカッションしてみたい」
そう語る深山さんの満面の笑みは、1人の作曲家でもあり、研究者でもあり、不思議なことや面白いことに挑戦する「探究心」や「好奇心」を持った少年のようでもありました。
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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