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「AIプロジェクトを担当してくれ」突然の上司のむちゃぶり あなたが最初にやるべきことは?きょうから始めるAI活用(5/5 ページ)

» 2018年11月14日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 3つ目は「場所と時間の制約から解放する」というもの。

 例えば損保ジャパンが代理店向けに提供している、AIを使った自動車保険証券・車検証読み取りアプリ「カシャらく見積り」。

 これはカメラで他社の保険証券や車検証を撮影すると、AIが契約内容を読み取り、自動的に自社商品の補償内容に置き換えるというもの。見積書作成から契約までをペーパーレスかつシームレスに行えるので、代理店は事務作業を省力化でき、手間暇をかけずに新規顧客への提案ができるようになる。

 アプリがなくても、代理店は損保ジャパンに直接問合せるなどすれば、見積もりを作成できる。しかしアプリ化していつでも使えるようにすることで、損保ジャパンの代理店対応担当者が持つノウハウを、場所と時間を選ばずに使えるにようになるわけだ。

 仮に将来、このアプリが一般消費者にも公開されて保険のダイレクト販売に近い形になれば、より「場所と時間を選ばない」サービスとして価値を高められるだろう。

その3:「新しい価値」の創出

 そしてAIで目指す3番目のゴールは「新しい価値の創出」である。AIが人間の作業を肩代わりすることで生まれる価値は、従来提供されていた価値の延長線上にあるとは限らない。

 あるいはそもそも、AIによって人間には不可能だった作業が可能になる場合もある。つまりAI導入によって、全く新しい価値を提供できる可能性があるわけだ。

 例えば製造現場で行われる「予知保全」の例。従来は工場内の設備や機器について、一定の周期(部品の耐用年数など)が来たり、実際に異常が見つかったりした場合に修理・交換をしていた。これをAIで予知する。

 異常の発生を正確に予知するには、多種多様なデータを大量に集めて分析しなければならない。例えば米ゼネラル・エレクトリック(GE)の先進的な工場では1万個以上のセンサーを設置し、工場内の状態をリアルタイムで分析している。そうした多様なパラメータを組み合わせ、人間には分からない微妙なデータの変化や相関関係から将来の故障を予知するのである。

 またニューヨーク大学の研究者らは、Googleの画像認識AIを活用することで、2種類の肺がんを97%の精度で判別できるようになったという研究成果を発表した(参考記事:米VentureBeat)。また人間の病理学者ですら識別できない、腫瘍内の遺伝子変異までAIが検知できるようになったと訴えている。こうした事例は、これまで不可能だったり、検討すらされなかった価値の実現を、AI導入によって目指せる可能性があることを示唆している。

まとめ:まずは「実現したいこと」「実現可能なゴール」の設定を

 AIで目指すゴールは、1番目から3番目に向かうほど実現が難しくなるが、「新しい価値」の実現を目指さなければAI導入には意味がないというものでもない。自社の状況を見て、まずはどこまで実現することが望ましいのかを検討し、実現可能なゴールを設定することが何より重要だ。その結論について、関係者間で同じ認識を持つよう調整することが求められる。

 ゴールが設定されたら、いよいよ具体的なプロジェクトに取り組むことになる。次回は、「実際の開発および導入に入る前に必要なこと」を考えてみたい。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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