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ビジネスを変える5G

スタジアムの観客みんなが審判に? 5Gで変わるスポーツ観戦 特集・ビジネスを変える5G(2/3 ページ)

» 2018年11月19日 08時00分 公開
[村上万純ITmedia]

夏の沖縄で実証実験、サーバルームでの戦い

 複数台のカメラの映像を切り替える「タイムスライス」と呼ばれる従来の方式では5Gを使わなくても端末に映像を配信できるが、KDDIが6月に沖縄で行った実験では、カメラ映像から選手と背景の境界線を抽出して3Dモデル化する「自由視点VR」を採用。タイムスライスでは40〜100台のカメラが必要なのに対し、カメラ台数は8〜20台で済むが、映像データが大容量化するため、多数のデバイスに遅延なくスムーズに映像を送るには5Gを使う必要があるという。

KDDI 自由視点VR技術
KDDI

 沖縄の実験では28GHz帯(700MHz幅)の5G基地局アンテナ4台を配置し、観客席に5Gエリアを構築。スタンド席の最上段には16台の4Kカメラを設置した。複数のカメラ映像をコンテンツ製作用サーバに転送し、選手やスタジアム背景などの領域を抽出して3Dモデル化。配信用サーバから5G通信を介して観客席に用意された10台の5G対応タブレット端末にリアルタイムで自由視点映像を配信した。

KDDI システム構成

 観客は、タブレット端末の画面をスワイプ操作することで上下左右、自由な角度で試合を観戦でき、リプレイも視聴できる。

 午後6時スタートのナイターだったが、日が長く気温が高い沖縄県ならではの苦労もあったという。配信サーバはタブレット端末の台数と同じ10台を用意。大容量の映像をリアルタイムでさばき続けるサーバを冷却するため、複数台の扇風機が回り続けていた。

 内藤さんは「気温よりも思ったより空が明るいことが問題だった」と振り返る。カメラ映像の認識がうまくいかず、選手や背景の領域抽出がうまくいかなかったのだ。「人海戦術でパラメータを手動で変えながら領域を抽出し、1枚1枚処理していった」と内藤さんは裏側の苦労を語る。

KDDI KDDIで5G関連の取り組みを推進する松永彰さん

 5Gアンテナの配置も工夫した。28GHz帯は、800MHzなどと比べて直進性が強く減衰も多いので障害物に弱い。KDDIで5G関連の取り組みを推進する松永彰さん(技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクター)は「なるべく高い場所に設置し、観客の移動で電波が遮られないように向きも考慮した」と話す。

 こうした環境条件は競技やスタジアムによっても異なるため、まだまだ試行錯誤の余地がありそうだ。

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