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決済サービスの名称として「Pay」を商標登録できないのはなぜか?(2/2 ページ)

» 2019年02月27日 08時16分 公開
[栗原潔ITmedia]
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 また、普通名称かどうかは日本国内の一般消費者の視点で判断されます(特許庁審査官が日本の一般消費者ならこう考えるだろうという立ち位置で判断します)。英語のpayが「支払う」を意味することは、日本の消費者のほとんどが知っていますので、支払・決済サービスの名称としては商標登録できません。例えば、ドイツ語で「支払う」を意味するZahlenであれば(ビジネス的に意味があるかどうは別として)登録できる可能性が高いです。日本の消費者で、Zahlenときいて「支払う」を思い浮かべる人は(ゼロではないですが)一般的ではないからです。なお、仮にドイツで同じZahlenという商標を指定役務決済サービスで出願しても登録できないのは当然です。

 また、上記の規定は「普通に用いられる方法で表示する標章のみ」という条件なので、例えば、PayPalやR-Payのように別の言葉を付ければ(類似の先登録がない限り)決済サービスを指定役務としても登録可能です。PayPayも同じパターンです。苦肉の策かもしれませんがPayという言葉にこだわる孫社長の思いを汲んだ良い命名ではないかと思います。

 また、大幅にデザインを加えたロゴマークとしたり、別の図形を付けて文字と図形の結合商標として出願したりしても登録可能です。アップルはApple Payに関して有名な林檎マークにPayの文字を加えた結合商標としての登録も行なっています。もちろん、これらの場合は、Payという言葉そのもので登録されたわけではありませんので、他社がPayという言葉だけを商標的に使用した場合に権利行使することはできません。

photo Apple Pay

 では、普通名称に何か言葉を足せば登録可能ということで、例えば、「おいしい林檎」を指定商品を果物で出願すれば登録されるかというと、これは別の条文「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(一部略)」(商標法3条1項3号)を理由に登録できません。このような商標を記述的商標と呼びます。特定の企業に独占させることは望ましくないため、登録されないことは普通名称の場合と同じです。なお、先に、決済サービスを指定役務としたPayは普通名称であることを理由として拒絶されるだろうと書きましたが、ひょっとすると記述的商標であることを理由として拒絶されるかもしれません(結果的に拒絶されるのは同じです)。

 要は、「そのまんま」の商標は登録できないと考えればよいでしょう。

 ただし、「暗示はするが記述的というほどではない」というレベルのグレーゾーンはあります。例えば「ぐるなび」という商標は、グルメをナビゲートすることを暗示はしますが、記述的(そのまんま)というほどではないので、ちゃんと登録されています。サービスの内容が消費者にイメージしやすくかつ商標としても独占できる良い名称だと思います。

 商標登録のしやすさを考慮して、商品やサービスの名称を決めるときには、完全な造語(例えばGoogle、Yahoo!等)を考案する方法、または、全然分野違いの言葉を選ぶ方法(例えばコンピュータについて「アップル」)という方法もありますが、「暗示はするが記述的というほどではない」名称にチャレンジすることも選択肢としては十分に考えられます。

著者について

栗原潔(くりはらきよし)。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願の相談に対応している。最近の訳書に「キャズム」のジェフリー・ムーア最新作「ゾーンマネジメント」。


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