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「大企業は時間を奪っている意識がない」 AIベンチャーが本音で激論、“丸投げ依頼”の次なる課題これからのAIの話をしよう(AIベンチャー対談編)(1/4 ページ)

» 2019年02月28日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 2018年ごろから、人工知能(AI)に対する過剰な期待と盛り上がりが徐々に落ち着いてきた印象です。

 調査会社のガートナージャパンは、人工知能は流行期から幻滅期に差し掛かっているという見解を18年10月に発表しました。AI開発の現場で活躍している人の中にはそうした傾向を前向きに捉え、「ようやく落ち着いて話ができる環境になった」と胸をなで下ろしている人もいます。

 そのうちの1人が、AIベンチャー Shannon Lab代表取締役の田中潤さんです。アメリカの大学で数学を研究していた田中さんは、現在人工知能の対話エンジンや音声認識エンジンを開発し、AIベンチャーの立場で企業のAI導入を支援しています。

 田中さんは「2016〜17年ごろはAIに対する誤解がとても多かったが、18年はだいぶマトモになった」と言います。しかし、コンサルタントとして企業のAI導入を支援したり、セミナーで講演したりする中で「まだまだAIに対する誤解は残っている」と頭を抱えることも多いようです。

 今回は、ITmedia NEWSでAI開発の現状を伝える「マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!」を連載しているマスクド・アナライズさんと田中さんの対談をお届けします。

AI 左からAIベンチャーで働くマスクド・アナライズさんと、Shannon Lab代表取締役の田中潤さん

 お二人には、AIベンチャーの立場から日本企業がAI開発で抱える課題について、ざっくばらんに語っていただきました。話したテーマも、「依頼主に時間を奪われるAIベンチャーの苦悩」「失敗を恐れすぎる大企業」「怪しいAIベンチャーの見破り方」「AI人材不足に悩む日本企業」「AI人材に必要な能力」「AIでビジネスをすることの難しさ」と多岐にわたっています。

 約2時間の本音トークを、前後編に分けてまとめました。

主な対談テーマ(前後編)

  • 「時間を奪われる」AIベンチャーの苦悩
  • AI開発で失敗を恐れるな
  • 怪しいAIベンチャーの見破り方
  • AI人材不足に悩む日本企業
  • AI人材に必要な能力
  • AIでビジネスをすることの難しさ
  • 他社の成功事例をまねしても意味はない

対談者プロフィール:田中潤さん

Shannon Lab株式会社代表取締役。アメリカの大学で数学の実数解析の一分野である測度論や経路積分を研究。カリフォルニア大学リバーサイド校博士課程に在籍中にShannon Labを立ち上げるため2011年帰国。人工知能の対話エンジン、音声認識エンジンを開発。開発の際は常にPythonを愛用。

著書に「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」などがある。

対談者プロフィール:マスクド・アナライズさん

AI、IoT、機械学習、データ分析などを手掛けるベンチャー企業に勤務。データサイエンス業界の動向や各社のニュースをSNSなどで発信している。ITmedia NEWSで「マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!」を連載中。3月4日にAIイベント「ABEJA SIX 2019」でトークセッション「徹底討論 : AI導入・運用を加速せよ、40分一本勝負!」に登壇。

連載:これからのAIの話をしよう

いま話題のAI(人工知能)には何ができて、私たちの生活に一体どのような影響をもたらすのか。AI研究からビジネス活用まで、さまざまな分野の専門家たちにAIを取り巻く現状を聞いていく。

(編集:ITmedia村上)

「時間を奪われる」AIベンチャーの苦悩

―― お二人は、AIベンチャーの立場で多くの企業のAI導入を支援しているという共通点があります。田中さんがマスクドさんの記事「『AI開発ミステリー 〜そして誰も作らなかった〜』 とある大手製造業の怖いハナシ」を読んだことがきっかけで声を掛けたらしいですね。

田中 社長が思い付きで部長に「AIをやれ」と言うところとか、すごく分かるなと思って。記事内の画像(※マスクドさん作成)をプレゼン資料で使いたくてTwitterで連絡しました。

対談 マスクド・アナライズさんが作成した「現実の開発体制」のイラスト

田中 マスクドさんの記事は図解が分かりやすい。僕の本でも同じようなことを書いているのに、全然伝わらないですから。みんな言葉で説明しようとするので、AIの現状について図解できる人っていないんです。マスクドさんの記事は「こんなに分かりやすく書かれているのか」と衝撃が走りました。

マスクド 「AI特有の難しさ、分かりにくさ」ってありませんか? 例えば、経済系の新聞や雑誌を読んで、「こんなAIの記事を読んだんですけど、御社でも実現しますよね?」と、われわれのようなAIベンダーに問い合わせてくるパターンって多いですよね。何でプレスリリースを出した会社に直接問い合わせないんだろうと。僕らにとっては簡単なことが、一般の人からしたら難しい。AI業界って分かりにくいんだろうなと思います。

田中  2016〜17年辺りは、アイデアもなく、とりあえずAIブームに乗っかろうという大企業からの問い合わせが多くてビジネスにならないと思ってました。

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