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四角が丸に、魚が蝶に──“不可能立体”研究10年、杉原教授が導き出した「錯視の方程式」(2/3 ページ)

» 2019年03月13日 15時38分 公開
[井上輝一ITmedia]

 一つは立体物を巨大にし、遠くから見せること。「人の両目は10メートル以上先のものからは奥行きを取れない」(杉原教授)からだ。

 もう一つは、2方向から望む形に見える立体を計算すること。1方向から不可能立体を作る際には無数の解があったように、2方向になっても方程式を解いて解があればその立体は作製可能で、解がなければ不可能という考えだ。

 巨大不可能立体は、八海山麓スキー場で「雪の反重力すべり台」として実現した。子どもたちがソリで滑れる大きさのすべり台を雪で作り、遠くから両目で見ると、あたかも子どもたちがすべり台を下から上に滑っているように見えるというものだ。

ソリがすべり台の下から上へ滑っているように見える

 もう一つの「2方向から見える不可能立体」の研究結果から生まれたのが、円柱が鏡に映ると四角柱になったり、2つの離れた円柱が鏡に映ると重なったりして話題になり、2016年ベスト錯覚コンテスト2位を受賞した「四角と丸」だ。同作品の動画は、YouTube上で800万回以上再生された。

2016年ベスト錯覚コンテスト2位を受賞した「四角と丸」
手前にあるシリンダーは四角だが、鏡の向こうには丸いシリンダーがある
四角と丸四角と丸四角と丸 180度回転させると、手前は丸いシリンダーに、鏡の向こうには四角いシリンダーになった
四角と丸四角と丸 鏡の向こうでだけシリンダーが重なったり、逆に離れたり……
四角と丸四角と丸 もう理解が追いつかない

 「四角と丸」のような鏡映しで形を変える不可能立体には、「脳はシリンダーの断面を、平面に切断された切り口だと見なす傾向が強い」という錯覚を利用したとしている。

脳がシリンダーの錯視にだまされる理由

 記者も(タネを理解した上で)実物を両目で見てみたところ、少し角度を変えると何となく違和感に気付くものもあれば、90度側面から見てやっと分かるものや、よく見ても実際の形をうまく認識できず、狐につままれたような気持ちになるものもあった。

トランプトランプトランプ 記事冒頭の不可能立体。斜めから見ると光の影が実際の形をつかむ手掛かりとなる(左、中央) 真上から見るとシリンダー自体はこんな形をしていた(右)
魚と蝶魚と蝶魚と蝶 手前には魚、鏡には蝶が映っている。波の形も変わっている(左) かなり斜め上から見ても魚の印象は変わらない(中央) ほぼ真上から見てようやく蝶の形も見えてきた(右)
くっついたり離れたりするシリンダーの仕組みくっついたり離れたりするシリンダーの仕組み 「四角と丸」の中に出てくる、くっついたり離れたりするシリンダーの仕組み

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