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「意識変わった」「風邪が減った」 しっかり寝ると報酬がもらえる「睡眠報酬制度」を導入した企業の“その後”(1/2 ページ)

» 2019年03月13日 20時54分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 「社会実験そのものです。インセンティブの形を変えて各社が取り組んでみたらいいと思います」——2018年10月に「睡眠報酬制度」を導入したCRAZY(東京都・墨田区)の森山和彦社長はそう語る。スマートフォンアプリで社員の睡眠時間を計測し、1週間のうち6時間を超える睡眠をとった日が5日間以上あれば報酬を与える——前代未聞の取り組みがスタートして約5カ月、現在の状況を聞いた。

CRAZYの森山和彦社長

 CRAZYは、完全オーダーメイドのオリジナルウェディング事業を展開する“イベントベンチャー”だ。2012年の創業からわずか6年で約1000組の結婚式を手掛け、17年からは法人向けのイベントプロデュース事業にも進出。今年2月には「ゲストと作る新しい結婚式」をうたい、東京・表参道にイベントスペース「IWAI」をオープンするなど順調に事業を拡大している。

 社員85人のうち6割が女性。平均年齢も30歳と若く、健康面に不安を抱える年齢ではないが、森山氏は創業当初からWHO憲章「健康の定義」に基づく「健康経営」を目指し、さまざまな取り組みを行ってきた。まだ社員数が少なかったころに始めた全社員でのランチタイムでは、社長自ら健康食を勉強して腕をふるった。

 「創業以来、経営の優先順位のトップに健康を置いています。社員が健康じゃないと儲かりませんし、経営者も幸せではありません。NPO(非営利団体)ではありませんが、社員が健康なほうが会社もうまく回るというのは当然です」(森山氏)

「寝る時間」管理で「働きたい権利」守る

 森山氏は、自分の健康習慣を周囲に勧める健康オタクというわけではない。睡眠報酬制度を作ったきっかけは、過労死事件の渦中にあった大手広告代理店に勤める知人が「働きたくても働けない。働きたい人の権利が守られていない」とこぼしたこと。

 「世の中の論調は『働かされている人たちを守ろう』ですよね。でも、がんじがらめで思うように働けない人たちもいます。ならば、その人たちの健康を守るため、『労働時間』ではなく『寝る時間』を管理したらどうでしょう。そこにインセンティブを払ったら面白い」(森山氏)

 逆転の発想から生まれたアイデア。もちろん最初は「単なる思いつき」だったが、さまざまな人と話すうちに確信に変わる。たまたま飲み会の席で紹介されたエアウィーヴの高岡本州社長には、睡眠に関する知見の提供とマットレスパッドの社内向け特別販売に関する約束を半ば強引に取り付けた。

森山社長(左)とエアウィーヴの高岡本州社長(右)。2018年10月の発表会で撮影

 制度導入に先立ち、社内で睡眠に関するアンケート調査を行ったところ、7割の社員が「睡眠や休息の取り方が原因でベストパフォーマンスを出せない日がある」と回答した。しかし、「快眠プランナー」によるセミナーと睡眠時間計測のトライアルを実施した結果、2カ月後のアンケートでは3割に減ったという。

 こうした準備に1年を費やし、18年10月に「おそらく日本初」(同社)の睡眠報酬制度がスタートする。参加した社員は就寝時にエアウィーヴの快眠アプリ「airweave Sleep Analysis」(iOS/Android)をタップ。起床時はアラームを止めると同時に計測も終了する仕組みだ。

アプリの画面。表示しているのは森山社長の睡眠データ

 当初はアプリの機能を使って睡眠の質も計測しようと考えていたが、煩雑さや精度を検討して見送った。「現状では悪手だと考えました。計測デバイスも進化しているので、いずれは睡眠の質も計測できるといいと思います」(森山氏)

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