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日本学術会議有志、ダウンロード違法化拡大を懸念 「科学者の情報アクセスへの自由を損なう危険」

» 2019年03月15日 08時07分 公開
[岡田有花ITmedia]

 無許諾でアップロードされたコンテンツを、そうと知りながらダウンロードする行為を私的利用でも違法とする範囲を、画像やテキストなどあらゆるコンテンツに拡大する政府の著作権法改正案について、日本の科学者でつくる団体・日本学術会議の有志3人が3月13日、懸念する声明を公表した

 文章数行など零細なダウンロードも違法とする現行法案は、「科学者の情報アクセスへの自由を損なう危険がある」などと指摘。民事上の違法化の範囲は「原作のまま」「著作権者の利益を不当に害する場合」という要件を加えることを求めているほか、刑事罰は不要だと主張している。

画像 声明より

 声明は、「事態の緊急性にかんがみ、日本学術会議からの公式の情報発出に先駆けて個人が表明するもの」としており、学術会議会員の専修大学・白藤博行教授、九州大学・土井政和名誉教授、京都大学・高山佳奈子教授の3人の連名。3人の名の下には「更新中」と書かれており、ほかの会員も名を連ねていくとみられる。

 声明では、政府の法案について、「適法なソースからではない私的ダウンロードについて、その事情を知っている場合には、漫画の1コマ、文章数行といった零細なものまでもが広く違法となる」と指摘。広範な規制は「市民が日常的に行う情報収集活動に対する大きな制約となる」と危ぐする。

 そういった行為について民事上の責任が問われると委縮効果が見込まれる上、著作権侵害がネット上で批判を受け“炎上”することもあり、「市民に与える不利益は無視できない」と指摘。民事上の違法化の範囲について、「原作のまま」「著作権者の利益を不当に害する場合」という客観的な要件で絞り込んでおくことが重要だと述べる。

 また、刑事罰は不要とも主張。「憲法上刑罰の対象とし得るのは、保護法益を損なうおそれが観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものの」との最高裁判例を引き、今回の法案は「これをはるかに超えている」と批判。現行法でも著作権法違反の幇助犯は刑事罰対象になっているため、「これに当たらない行為を広範に重罰の対象とする必要はない」としている。

 政府案では刑事罰について「正規版が有償で提供されているもの」「継続的に又は反復して行う場合」という2つの要件を加えるとしているが、「有償で提供されている著作物は多く、市民の多くはダウンロード行為を日常的に行っている」とし、これらの要件が「刑事罰を限定する効果を有するのかという点にも疑問がある」と指摘。

 未必の故意でも犯罪は成立するため、「個別の事情によっては、一般的な情報収集活動までが処罰対象となりかねない」「刑事手続の濫用によって不当に人権が侵害されることに対する歯止めも設けられていない」と危ぐしている。

 また、法案を議論した文化庁の審議会では、大多数の議員が全面違法化に反対だったにも関わらず、政府が自民党の合同会議に提出した資料では、「あたかも賛成が多数であるかのような錯覚を起こさせる形で作成されている」と指摘。「立法府をあざむく手段により制度変更を強行することは許されない」と批判している。

 「多くの知的資産や情報がインターネット上で公開・共有されており、科学者は、これらにアクセスすることによって社会から負託された研究活動を行っている」現状を踏まえ、「今回の改正案は、このアクセスの自由をも損なう危険がある」とし、「日本の科学者コミュニティの代表機関として法制上位置付けられている日本学術会議の会員として、改正案を強く危ぐする」と表明している。

 違法ダウンロード規制拡大をめぐっては、日本漫画家協会全国同人誌即売会連絡会といったクリエイター団体や法学者のほか、日本建築学会も見直しを求める声明を発表している。

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