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「アベンジャーズ型」のデータ分析組織がうまくいかない理由マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!(2/3 ページ)

» 2019年05月08日 07時00分 公開

 最初は1人で戦っていたヒーローがさまざまな障害を乗り越えて、地球の危機のために集結して戦う――アベンジャーズを構成する各作品のストーリーは、社内で孤独に分析するデータサイエンティストが部門や組織の壁を乗り越え、業績不振の会社を救っていく様子に重なります。もっとも、個々の能力は高いものの個性と主張が強すぎると、組織としてうまく機能しません。

 アベンジャーズのメンバーたちは能力的にはすごいものの、自分の研究に没頭したり、暴れると手が付けられなかったり、良くも悪くも真面目すぎたりと、アメリカンな自己主張が強すぎて、思ったほどの成果が出ません。こうした資質的な問題でもめ事が起きるのは、データ分析組織でも同様です。筆者の経験ですが、案件に携わるメンバー同士のもめ事で仲裁役になったこともありました。

AI連載 アベンジャーズ型組織の失敗(図は筆者作成)

 本記事の読者には、IT業界の方以外にも大手企業など年功序列や前例主義が残る組織で働く方もいます。そこで、どんなデータ分析組織なら日本企業の枠組みの中でうまく機能できるのかを考えてみたいと思います。日本型組織が大活躍した、“あの日本映画”を題材にします。

「シン・ゴジラ」で考えるデータ分析組織の理想像

 日本企業にふさわしい組織は、現場の強みを生かして、組織間の連携と連絡を密にし、トップダウンとボトムアップのバランスが良く、天才ではなくとも優秀な人材が在籍し、一致団結して脅威に挑めるようなチームです。

 ここで、長く続いたシリーズを一新して大ヒットを飛ばしたあの映画が思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。いままさに、頭の中にあのBGMが流れてきました。

BGM:デンデンデン ドンドン♪ デンデンデン ドンドン♪ テテテ テテテ ダーンダーン♪

 そう、映画「シン・ゴジラ」にこそデータ分析組織の理想が詰まっているのです。シン・ゴジラでは、強大な敵(ゴジラ)に対して多くの人々が一致団結して立ち向かいますが、その構図はアベンジャーズでも同じです。

 特殊能力を持つ少数のヒーローが集結するアベンジャーズに対して、シン・ゴジラの登場人物は優秀ですがあくまで人間です。異なる組織や立場の人々が「巨災対」(巨大不明生物特設災害対策本部)という共通のチームとして団結し、日本を守るべく奮闘します。

 ここで、シン・ゴジラとデータ分析組織の共通点を象徴する登場人物たちのせりふをそれぞれ引用します。巨災対という新組織立ち上げに関わるシーンです。

 「首を斜めに振らない連中を集めて渡すよ」(巨災対のメンバーを選抜した泉修一)

 「そもそも出世に無縁な霞ヶ関のはぐれもの、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児。そういった人間の集まりであるからして、気にせず好きにやってくれ」(巨災対メンバーの森文哉)

 「本対策室の中では、どう動いても人事査定に影響はない。なので役職・年次・省庁間の縦割りを気にせず、ここでは自由に発言してほしい」(巨災対の矢口蘭堂事務局長)

 ゴジラという未曽有の存在に対峙(たいじ)するには、人事査定や組織の縦割り構図などにとらわれている場合ではありません。データ分析組織も同様で、特殊な能力や経歴を持った人材を集めた上で、縦割り組織の壁を超えた活動を求められます。劇中で巨災対は非常時における特例とされましたが、会社でデータ分析組織を立ち上げるなら、トップ自らがこうした土台を作る必要があります。

 個性の強いメンバーが集まったチームでありがちなのは、メンバー同士の衝突です。アベンジャーズシリーズでも意見が対立したり、身内(主に雷様の義弟)がトラブルを起こしたりしますが、シン・ゴジラでは足を引っ張ったり、個人的な目的や感情で暴走したりする人はいません。全員が自分や部門ごとの利益ではなく、全体への貢献を優先しています。

 また越権行為や他組織の介入がトラブルにならないように、現場のリーダーがパイプ役・調整役となり、上層部への提言や意見などを取りまとめます。リーダーとしてコネクションを発揮し、ゴジラ対策の研究所や施設、機材を総動員するのです。

 このような「今あるもので何とかする」という方法に帰結するのが、良くも悪くも現実といえます。データ分析組織におけるよくある誤解として「高価な分析ツールや大規模なデータベースを導入すれば解決する」というものがありますが、実際はそんな予算も整備されたデータベースもなく、関係各所に依頼してデータを集めてデータを整備(前処理)し、いろいろな分析手法で試行錯誤を繰り返すという地味な作業ばかりです。

 アベンジャーズのように国家予算並の資金で開発されたスーツや、選ばれた神にしか使えないハンマー、絶対壊れないシールドなどは現実に存在しません。シン・ゴジラでも、これまでのゴジラ映画における“秘密兵器”は登場せず、現実に存在するものでゴジラと対峙します(「無人在来線爆弾」はギリギリセーフ)。

 結局の所、「制限がある中で、いま使えるもので最大限の成果を出すために何をするかを、トップから現場までが考えて最適な行動を取る」という結論に至ります。こうして限られた環境下でも根回しや組織間の調整を駆使して最大限の結果を出し、最悪の事態(国連決議によるゴジラへの熱核攻撃)を回避します。この一連の流れが、シン・ゴジラにおける物語となります。

AI連載 シン・ゴジラ型データ分析組織の特徴

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