ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >
インタビュー
» 2019年06月03日 07時00分 公開

「海外は量子アニーリングに見切り」──ハードもソフトも開発する量子ベンチャー「MDR」に聞いた「量子コンピュータの今」 (3/5)

[井上輝一,ITmedia]

 一つは、「実際に解きたい問題を量子アニーリング方式に落とし込みにくい」ということだ。

 量子アニーリング方式では、相互作用を設定した量子ビットを格子状に並べる。これをイジングモデルといい、量子効果を使ってイジングモデルを表す関数の最小値を探す。つまり、現実にある組み合わせ問題を量子アニーラで解くためには、まず問題をイジングモデルの目的関数に合う形に直さなければならない。

 「イジングモデルを使うのは大変。問題を無理やりイジングモデルに落とし込んであまり良いことになったことがなかった」と湊さんは振り返る。

 「実際使ってみると、最初の1カ月で諦めてしまう人が多い。論文では『できる』と書かれていても、実務的にはおぼつかなかった」(同)

 湊さんによれば、海外の量子コンピューティング関連企業も量子アニーラを試して同様の結論に至っているという。

 さらに、「巡回セールスマン問題が解けない」と、湊さんは量子アニーラの問題点を明かす。

 巡回セールスマン問題とは、セールスマンが複数の都市を回る際に、どのような順路で回れば移動距離を最短にできるか求める組み合わせ最適化問題だ。

 量子アニーリング方式が得意とされる組み合わせ最適化問題が解けないというのは、衝撃的な情報だ。

 「実際に使ってみると全然解けない。4都市の問題でも解けるかどうか怪しい」(同)

 「今から量子アニーリングに参入するという人は、業界を調べていないのだなと思う。なぜかそういうところだけ海外に合わせないという風潮があるが、なぜ他がやっていないのか考えて、早めに損切りするべきだ」(同)

 しかし、他方の量子ゲート方式では試験的なマシンはこれまで出てきているものの、D-Waveの量子アニーラほど目覚ましい計算結果を公表しているものはまだない。19年1月には米IBMが「史上初の商用汎用量子コンピュータ」として量子ゲート方式のマシン「IBM Q System One」を発表したが、計算能力は現在のところ未知数だ。

「史上初の商用汎用量子コンピュータ」という米IBMの「IBM Q System One」

 それでも量子ゲート方式を選ぶ理由として、湊さんは「計画を立てやすい」ことと「金融分野や材料分野の計算に適している」ことを挙げる。

計算量の理論があるかどうか

 量子ゲート方式が、量子アニーリング方式が世に出る前から期待されているのは、実現できれば従来のコンピュータ(古典コンピュータ)より明らかに速い計算処理が可能だからだ。

 古典コンピュータでは問題の大きさが増えるにつれて指数関数的に計算量が急激に増えてしまうところ、量子ゲートマシンで量子アルゴリズムを用いれば計算量の増加を2次関数程度に抑えられるといわれる。

 例えば、問題サイズが10であれば古典コンピュータは2の10乗=1024ステップの計算が必要なところ、量子ゲートマシンでは10の2乗=100ステップの計算で済む。

 問題サイズが100の場合、量子ゲートマシンは1万ステップの計算となるが、古典コンピュータは約10の30乗(1兆×1兆×100万)ステップとなり、現実的に計算が終わらないほど計算量が増えてしまう。これを組み合わせ爆発という。

 一方で、量子アニーリング方式にはこのような計算理論がなく、「ヒューリスティック」なアルゴリズムといわれる。ヒューリスティックとは、計算理論的に精度が保証されないが、経験的には精度が高く短時間で計算できるということだ。

 このように、量子ゲート方式では計算理論が確立されていることから、「何量子ビットでどれくらいの性能が出るのか、“誤り訂正”ができれば何ができるのか分かるため、技術的に難しくても事業計画が立てやすい」(同)と話す。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.