日本アイ・ビー・エム(IBM)の山口明夫新社長は6月5日に会見を開き、新体制のビジョンと注力分野を説明した。5月1日付で7年ぶりの日本人社長に就いた山口社長は、1987年に入社し、エンジニアや経営企画などを歴任後、AI・IoT・クラウドなどを駆使したシステム構築部門のトップを務めた生え抜きだ。会見では時代背景を踏まえつつ、日本社会のデジタル変革(DX)をさらに進める方針を強調した。
山口社長によると、現代のビジネス界は「新たな世界につながる通過点」に位置している。数年前はクラウドやAIが脚光を浴び始めたばかりで、「クラウドにしないと乗り遅れる」「AIを入れたほうがいいらしい」と漠然とした理由で実証実験や部門単位での導入を行う企業が多かったが、現在は知識が浸透し、本格展開が当たり前になったためだ。
「IBMクラウドの他、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなど、多様なクラウドを適材適所で使うハイブリッド/マルチクラウドの時代になった。AIも、データを集めるのは大変だが、使うことでビジネスプロセスを変えられることが周知された。企業は使っていなかった80%のデータを活用し、“攻めのビジネス”を展開できる時期に来た」と山口社長は力説する。
こうした中でIBMは、業界ごとに特化したITソリューションを提供し、企業だけでなく、社会全体のデジタル化を加速させる方針だ。「あと10年が経てば、その辺りを自動運転車が走り、ドローンが荷物を運んでいるかもしれない。(IT活用によって)社会全体のエコシステムをつくりたい」(山口社長、以下同)という。
社会のデジタル変革を加速させる上で、IBMが掲げるビジョンは「あらゆる枠を超える」。新体制ではパートナー企業、顧客、研究機関、経済界、各国政府などとの連携を強化し、新たなビジネスの考案やIT人材の育成を進める方針だ。
ビジネス面の具体的な注力領域は、(1)各業界に特化したITソリューションの展開、(2)企業や大学とのAI領域を中心とした共同研究、(3)顧客企業の社員、一般消費者、学生に向けたAI教育の展開――の3つ。
(1)では、銀行には勘定系ソリューション、製造業にはスマートファクトリー(IoTを駆使し、あらゆる機器をネットでつないだ工場)、医療業界には電子カルテ、貿易業界にはブロックチェーンを活用した商品管理――といったように、顧客企業の特性と課題に応じた解決策を提示・導入する。
(2)では、米マサチューセッツ工科大学(MIT)とIBMによる共同研究プロジェクト「MIT-IBM Watson AIラボ」を推進する他、慶應義塾大学と共同で運営する量子コンピュータの研究拠点「IBM Qネットワークハブ」の活動を推進する。外部機関から研究を請け負うケースも想定する。
(3)では、人材育成プログラム「コグニティブ・テクノロジー・アカデミー」の運営を通し、AIの基礎知識や有用性、AI導入後のガバナンス、AI活用のロードマップなどを幅広く伝えていく。学生インターンシップの受け入れなども積極的に行う。
山口社長は「今後、日本は人口減少などが続くが、顧客からのテクノロジーへの要求はもっと強くなるだろう。売上を伸ばしつつ、もっと社会の役に立てるよう頑張っていきたい」と強調した。
ただ、18年10月に発表した米IBMの米Red Hat買収による影響は「最終手続き中で、まだ話せない。完了した時点で、あらためて方向性を説明する」と話すにとどまった。
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