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AWSのビジネス戦略、改めて顧客志向を鮮明に AWS Summit Tokyo 2019基調講演AWS Summit Tokyo 2019(2/2 ページ)

» 2019年06月17日 07時46分 公開
[谷川耕一ITmedia]
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他社と比較するのではなく徹底した顧客志向を貫くAWS

 クラウドベンダーの多くがビジネス拡大のために、他社サービスに対する優位性をアピールしたり、さらには新たなパートナーとの協業を発表したりしている。先日も長年ライバル関係にあったMicrosoftとOracleが、両社のクラウドサービスをシームレスに接続すると発表して業界を驚かせた。またデータ活用のソリューションを提供するLookerとTableau Softwareを、Google、Salesforce.comそれぞれが買収するとの発表もあったばかりだ。クラウドを取り巻くプレイヤーの勢力図は、常に大きく変化しているのだ。

 そういった中でトップを走るAWSは、公の場では他社サービスとの比較をほとんど行わない。また、自社サービス上でサービスを提供したり、自社サービスを活用するコンサルティングや開発を行ったりするパートナーとの間では積極的な協業の動きを見せるが、ベンダー同士の協業ではあまり大きな発表はしていない。今回のイベントにおいても、他社に言及したのは前出のパブリッククラウドの市場シェアに関するもの以外では、クラウド上のデータベースにおいて商用データベースではクラウドの大規模なユーザーニーズに応えにくくなっているとの指摘くらいだ。

 この姿勢は、母体でもあるAmazon.comの企業理念でもある「地球上で最もお客様を大切にする企業になる」ことに通じるものがある。そのためAWSでも顧客に徹底してこだわり、他と比べるのではなくとにかく顧客の体験をより良いものにするところに注力する。この方針があるから、AWSはこれまでに72回もの値下げを実施している。これは他社と競争するための値下げではなく、顧客の声を聞いた結果と言うのが同社の主張になるわけだ。

 前述したように、AWSでは顧客ニーズを捉え機能やサービスの開発を行っている。その際には時間をかけて機能開発するのではなく、むしろ顧客ニーズに先駆け開発し、市場にいち早く提供してから機能を育てるようなアプローチをとる。その結果もあり、今ではサービスが165以上に増え、機能拡張は2018年の1年に1957回を数えた。この数字は2年前のおよそ倍であり、90%以上の機能は顧客の声により追加されたものなのだ。

 そしてクラウドジャーニーは、終わりのない持続性のあるものだとも長崎氏は言う。クラウドに既存のシステムを移行して終わりではなく、サービス系のシステムであれば顧客体験部分を継続的に強化し、ユーザーインタフェースを連続的に改善しなければならない。一方で基幹系は、安定性が重要だ。将来的にはこれら2つが、クラウドの上で融合することになる。

 この一連のクラウドジャーニーを進めて行く際に、ボトルネックになるのが膨大なデータの扱いだ。これを扱うためのデータベースは、商用データベース1つで賄えるような時代ではない。そのためAWSではさまざまなデータ、さまざまなワークロードに合わせ複数のデータベースサービスを提供する戦略をとる。適材適所でサービスを選べるようにする取り組みも、顧客から評価されている点となる。

 とはいえ、顧客がAWSの提供するもの全てに満足しているわけではない。たとえばデータウェアハウスのサービスとなるAmazon Redshiftについては、性能面で顧客から不満の声もあったという。これを改善するためにAWSでは200以上の機能を追加し、「2年で性能を10倍にしました」と長崎氏。このように顧客の声を聞き、常に改善を続けるのがAWSの強味だと主張する。

 ライバルとも積極的に協業し双方の顧客メリットを最大化することで、さらなるビジネスの拡大を目指す戦略もある。一方で、独自の視点で顧客志向を貫くAWSがいる。今のところはAWSが大きくリードしているが、今後のマルチクラウド、ハイブリッドクラウドの時代には、よりオープンに見える戦略を指示する声も大きくなるだろう。その際にクラウドと取り巻くプレイヤーの勢力図がどのように変化しているかは興味深いものもある。

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