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ビジネスとブロックチェーンの関係 AWSジャパンに聞く(3/3 ページ)

» 2019年07月19日 07時30分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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音楽配信にこそ、スマートコントラクトの導入を!

 「分散型のブロックチェーンには『スマートコントラクト』(コンピュータが理解できる形の契約)というアプリケーションを実装することが可能」(塚田氏)だという。あらかじめ決められた契約に従い、ブロックチェーンを用いて取引を自動で実施する仕組みだ。スマートコントラクトとして、契約内容をプログラムしておけば、その契約に従って報酬や分配金が自動で支払われるような仕組みを構築することもでき、契約業務等での省力化が見込める。

 音楽制作業を営みiTunes Store、Apple MusicやSpotifyに楽曲を提供する筆者の実体験から切実に思うことだが、音楽配信のプラットフォームと楽曲提供者(レーベルやアーティスト)のサプライチェーンにこそ、スマートコントラクトの仕組みが必要なのではないか。

 我々のようなインディレーベルは、大手とは異なり、配信プラットフォームと直接契約することはできず、アグリゲーターと呼ばれる中間事業者が介在する形で楽曲を提供する。プラットフォームとして、著作権の処理を含め報酬の分配を実施するためには、窓口を絞って効率化する必要があるのだろう。

photo 配信プラットフォームとインディレーベルの関係。インディはプラットフォーム側とは直接契約ができない

 楽曲の売上報告は、上流からプラットフォーマー→アグリゲーター→レーベルと降りてくるのだが、これがすべてCSVやExcelのシートだったりする。四半期ごとに所属アーティストに対しロイヤリティの分配処理を実施するわけだが、マクロ処理や手作業で個別に行わなければならない。そして、そこで算出された金額を個別に振り込む。これが大変なのだ。四半期に一度、この事務処理に多大なリソースを消費している。

 おまけに、上流から送付されてくるデータの真贋を確かめようがない。プラットフォーマーやアグリゲーターが楽曲の売上データを改ざんすることはないと信じているが、確認の手段が存在せず、信頼するしかない、というのは動かしようのない事実だ。悪意がなくとも、なんらかのエラー要因で誤ったデータが渡される可能性も排除できない。

 仮に将来、プラットフォーム、アグリゲーター、レーベル、アーティストが参加できる、楽曲の売上報告や権利処理を可能にするブロックチェーンネットワークが構築されたらどうなるだろうか。そして、そのブロックチェーン上では、スマートコントラクトの仕組みが走っているのだ。楽曲に埋め込んだメタデータを元に売上報告と報酬の分配が自動で実施される仕組みだ。

 夢のような話だが、ブロックチェーンというのは、こういう使い方をしてナンボのものではないのか。前出のソニー・ミュージックが構築しようとしてる、ブロックチェーンを利用した著作権処理・管理システムも似たようなコンセプトを標榜しているのだろう。

 ただ、この仕組みが本格化した暁には、プラットフォームとアーティストが直接つながることも可能になり、アグリゲーターやレーベルといった中間事業者の存在価値が問われることにはなるが……。

 最後に、行政におけるブロックチェーン利用について思うところを記しておく。約2年前、総務省のある高官が筆者にブロックチェーンでの公文書管理を実現したいと明かしたことがある。霞が関の忖度により、自衛隊日報問題、森友・加計問題等における、文書やデータの隠蔽、改ざん、捏造が大問題となっていた時期だけに、答えに窮したものだ。確かに、ブロックチェーンで公文書を管理すれば、改ざんや隠蔽が不可能になり、国民の信頼を得ることができるかもしれない。現政権にとっては、愉快な話ではないだろうが……。

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