「量子コンピュータの早期の実用化には、『量子版ムーアの法則』を実現していく必要がある」──科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターの嶋田義皓フェローは、テラスカイが7月19日に行ったイベントに登壇し、量子コンピュータの現状や、実用化が見込まれる時期を解説した。
嶋田フェローは、量子コンピュータの現状を「1950年代のコンピュータのようだ」と表現する。
50年代にはアセンブリ言語などを除いてはプログラミング言語がほぼなく、計算したいアルゴリズムをアセンブリなどで直接表現するような時代だった。ハードウェアもごく初期のもので、「巨大かつ複雑で信頼性も低かった」と嶋田フェローは話す。
現在、米IBMやGoogle、Intel、Microsoftなどが量子コンピュータのハードウェアを開発しているが、量子ビット数が少なく、エラーもあることから計算できる問題は限定的だ。計算したい問題をハードウェアへ送るためのAPIやSDKも出てきているが、「(現状は)量子回路をプログラミングで直接書いており、コンパイラも未成熟だ」(同)と、ハード・ソフトともにまだまだ黎明(れいめい)期であることを指摘する。
嶋田フェローは、「現在の量子コンピュータの性能と、量子アルゴリズムが必要とする量子ビット数にも乖離(かいり)がある」という。
米IBMが19年1月に発表した量子ゲート方式量子コンピュータ「IBM Q System One」は20量子ビット。一方、量子コンピュータが高速に計算できるアルゴリズムの一つとして知られる、素因数分解を解く「ショアのアルゴリズム」を実用するには「1万から10万量子ビット必要だ」と嶋田フェローは話す。
「ビット数が4年で14倍に増えていけば2030年ごろまでに10万量子ビット。4年で2倍に増えていくなら、1万量子ビットを超えるのは2050年ごろになるのではないか」(同)と予測している。
嶋田フェローとともに登壇した、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所の小林有里さんは、「大きな問題を解くには量子ビット数に加えて、エラー訂正技術の進歩も必要」と付け加える。
素因数分解に用いるショアのアルゴリズムなどの量子アルゴリズムは一般的に、量子が理想的に動くことを前提としている。しかし、現在の量子ビットはわずかな熱などのノイズでエラーが起きてしまい、アルゴリズムが正しく動作しないといった問題が起きている。
小林さんは、「量子ビット数とともにエラー訂正技術を伸ばし、エラー率を下げていくことで量子コンピュータの計算性能が伸びていく」と話す。IBMは、量子ビット数やエラー率などを考慮した性能指標として「量子体積」(Quantum Volume)を提唱している。
「IBMの量子コンピュータは、17年〜19年まで年々2倍に量子体積を伸ばしてきた」(小林さん)
「従来のコンピュータでは解けない問題を解ける『量子優位性』を2030年までに実現するには、年々2倍の性能向上を維持していかないといけない」と小林さん。IBMも、嶋田フェローの「4年で14倍」の予想とほぼ同じ考えで、性能向上に取り組んでいると話した。
嶋田フェローは、量子コンピュータの実用化には年々加速度的に性能が上がっていかなければいけないとする、自身やIBMの予想図を、「ムーアの法則」になぞらえて「量子版ムーアの法則のようだ」と話す。
しかし、いまだに実用的とはいえない技術をどのようにしたら加速度的に伸ばせるのか。嶋田フェローは、「(重要なのは)『NISQ』をどう使っていくかだ」と指摘する。
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