ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

「量子版ムーアの法則」は実現するか 今の量子コンピュータは「さながら1950年代」(2/2 ページ)

» 2019年07月22日 13時40分 公開
[井上輝一ITmedia]
前のページへ 1|2       

 NISQは、「Noisy Intermediate-Scale Quantum device」(ノイズあり中規模量子デバイス)のことで、量子エラー訂正が不十分で50〜100量子ビット程度の量子コンピュータを指す。現在の量子コンピュータは基本的にNISQだといえる。

米カリフォルニア工科大学のジョン・プレスキル教授が提唱した「NISQ」

 「エラー訂正が不十分だとしても、100量子ビットの計算をスパコンでシミュレートすることはできない。NISQでも、何か役に立つ計算ができるのではないか」(嶋田フェロー)

 NISQの活用方法としては、従来のコンピュータと組み合わせ、小規模な量子計算を何度も行って従来のコンピュータで最適化計算するハイブリッドアルゴリズムが考案されている。

ハイブリッドアルゴリズム化学計算と機械学習に見込まれる NISQを用いたハイブリッドアルゴリズムの、量子化学や機械学習計算への活用が見込まれている

 NISQの活躍が期待されているのは、化学物質の物性予測や分子設計を行う「量子化学・量子多体系」や、行列計算が必要な「機械学習」の分野だ。「他にも、乱数生成に使ってもいいし、ゲームの画像処理などにも適用できるかもしれない。NISQが有用だと示す『キラーアプリ』を探すことが重要」(嶋田フェロー)という。

 「量子版ムーアの法則の実現には、ソフトとハードの性能向上以外にもいろいろな動きが必要。NISQでのキラーアプリを見つけて量子コンピュータの優位性を実証し、直接的・間接的に収益を上げる。その収益を次世代のソフト・ハードの技術開発へ投資する。このような好循環があって初めて量子版ムーアの法則を実現できる」(同)

CanからShouldへ量子版ムーアの法則のサイクル 量子版ムーアの法則のサイクルに必要なこと(左)。量子コンピュータの優位性を示していかなければいけない(右)

 嶋田フェローは「まだ量子版ムーアの法則は始まっていない。しかし1、2年後にはもう始まるかもしれない。(事業者の方々には)ぜひこのサイクルに関わっていってほしい」と語った。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.