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AI-OCR、医療、監視――広がる画像認識の可能性よくわかる人工知能の基礎知識(4/6 ページ)

» 2019年08月21日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 レントゲンやCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)など、人体の中をのぞく技術は大きく発展したが、それを通じて得られた画像を「診て」いるのは人間の医師たちだ。そこに何が映っているのかを正しく把握するには高度な知識が必要で、医師も人間である以上、疲労やミスによる間違いは避けられない。

 そこで画像認識技術の登場だ。人体の内部を写した画像をAIに分析させ、そこに病気や、病気の初期症状が見られないかを確認する取り組みが各地で進んでいる。

 例えばGoogleの親会社Alphabet傘下でAI研究に取り組むDeepMindと東京慈恵会医科大学附属病院は18年10月、5年間のパートナーシップを締結し、AIによる乳がんスクリーニングの研究を開始すると発表した。

 それによると、臨床医が乳がんを把握するためにマンモグラフィ(乳房のX線)を使用する中で、毎年数千の症例が見落とされてしまうそうだ。そのため今回の研究では、東京慈恵会医科大学附属病院で過去に撮影された、約3万人の女性のマンモグラフィ画像(匿名化済み)をAIに解析させ、AI技術が現在のスクリーニング技術よりも効果的にX線画像上でがん性組織の兆候を検出できるか検討することを目指している。

 こうした画像認識による診断が、具体的な効果を上げる例も出てきている。同じくDeepMindは、網膜をスキャンした画像をAIで診断する装置を開発した。この装置は、糖尿病性網膜症や緑内障といった眼疾患の有無を、たった30秒で確認できるそうだ。その精度は一流の眼科医にも劣らないとDeepMindは主張している。

 また中国のBaidu(百度)も、眼底検査にAIを応用し、各種の眼疾患の初期症状を94%の精度で把握できる技術を開発したと発表している。こちらのAIが診断を下すのに要する時間は、わずか10秒だそうだ。

 画像認識による特殊な状況の把握は、医療分野以外にも、微細なひび割れの検知といった建築物の検査などで取り組まれている。こうしたアプリケーションが進化したことで、AIは専門家の「目」を手に入れたといえるだろう。

 AIが高度な「目」を手に入れたということは、これまではコストや物理的な距離の問題から専門家に頼れなかった場面でも、誰もが専門家と同等の知見に頼れるようになることを意味する。それによって従来以上の病気の早期発見や、広い範囲での危険な建築物の把握などが進むと期待されている。

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