Netflixが制作したオリジナルドラマシリーズ「全裸監督」が話題だ。8月8日の配信開始からわずか6日後にシーズン2の制作が決定した(まあ、実際に作品を見ていただければお分かりのように、非常に強くシーズン2を意識した「引き」で終わっており、その辺は「とてもアメリカドラマ的だなあ。そういうことなんだろうなあ」とは思っていたが)。
「全裸監督」は、実際、素晴らしい出来のドラマだと思う。見ていれば、時間も予算もしっかりかけたのはよく分かる。18歳未満はかなりお断りな作品だが、それ以上であれば、文句なくお勧めできる作品だ。
一方、「全裸監督」公開以降、次のような言葉を耳にすることも増えている。
「さすがNetflix。Netflixじゃなければできなかった」
「外資の力はすごい。黒船パワー」
うーん。
間違いじゃない。
「Netflixでなければ全裸監督は作れなかった」
これは、「今の日本のドラマ制作スタイルでは」という意味ではイエス、と言っていい。だが、「外資だからきわどい表現も許容された」「外資だから予算が多かった」と考えるのは間違っている。もっと厳しい言葉を言えば「思考停止」であり、言葉を選ばずに言えば害悪すらある、と思う。
では、なぜNetflixは「全裸監督」を制作できたのか? その辺をちゃんと分析してみたい。
なお、本記事に書いた内容は、2015年秋、講談社現代新書より発行した「ネットフリックスの時代」でも考察した内容が多く含まれている。特に、配信ビジネス以降の同社のビジネスについては、発刊後4年が経過した今も、もっとも情報がまとまった書籍の1つだと自負している。興味があれば併読していただけると幸いだ。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年8月19日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから。
まずは「予算」から。
Netflixは、1作品にかける予算を基本的に公開していない。トータルでのコンテンツ制作と調達にかけるコストは、2018年春に「公開した」数字として80億ドル(約9000億円)というものがあるが、2019年度はこれが150億ドル規模(約1.6兆円)に拡大している、と言われている。
Netflixがオリジナルコンテンツ調達に巨額な費用を投じているのは事実だ。だが、「全てが巨額か」「他に例がないか」というとそういうわけでもない。
Netflixの投資もピンキリだ。「Netflixオリジナル」とついていても、その調達方法はいろいろある。Netflixが一から企画を立てて制作出資したものもあれば、他のルートで企画・制作していたものを「配信独占」の形で調達したものもある。また、自社出資でも、作品の性質によってかかっているコストはまちまちだ。
今回の「全裸監督」の場合はどうか? やはり、予算面は明らかにされていないので、推測に頼る部分はある。だが、誰の目で見ても、一般的なテレビドラマよりお金がかかっているのは事実だ。セットも大きく豪華だし、撮影・編集も凝っている。スタッフロールをみれば分かるが、VFX・CG周りだけでいくつものチームが担当、ポストプロダクションはハリウッドの一流の映画監督御用達であるFotoKemが担当している。
日本のドラマでこの態勢はあり得ない。また、関係者のコメントを総合しても、「一般的なテレビドラマよりもずっとコストがかかっている」のは間違いない。
一般的な日本のドラマの場合、1話の制作費は数千万円。安価な作品は1000万円台以下ということもある。最も制作費をかけるNHKの大河ドラマで、5000万円から7000万円と言われている。「全裸監督」がどれだけの予算をかけたかは分からないが、少なくともこうした規模感の中では最上もしくはそれを超える額だったのではないか、という予想は容易に想像がつく。
では、ここで見方を変えてみたい。
海外、特に大ヒットするハリウッド制作のドラマはどうなのか?
こちらもピンキリではあるが、額はさらに大きい。
ヒットドラマの場合、1話の制作費は「数百万ドル」に達する。例えば、「ゲーム・オブ・スローンズ」の場合、1話当たりの制作費は1000万ドル台(約11億円)と言われている。これは極端な例だが、1話に3億円かける、という話は少なからずある。「全裸監督」もお金はかけているが、そこまでかかっているとは思えない。「お金はかけたがそこそこ」というのが実情ではないだろうか。それが、日本の規模よりはずっと大きかった、ということだ。
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