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Netflixはなぜ「全裸監督」を作れたのか(4/4 ページ)

» 2019年08月23日 08時16分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「テレビのドラマ」のルールを疑え

 ここで、日本のドラマともう一度比較してみよう。

 Netflixがやっていて、日本のドラマがやらないことが1つある。それは「ドラマの内容を決める前にキャスト決めることをしない」ということだ。

 日本の場合には、確実にヒットが見込めるキャストを最初に選んでおき、それありきでドラマが作られることが多い。いわゆる「数字を持っている」人でドラマを構成するわけだ。そうした人々はスケジュールも取り合いなので、先に、いつどういう枠で放送するかを決めておかないと企画が進まない。そうすると自然と、ドラマの内容も質も、予算規模も決まってしまう。「この枠の中で動け」という要素が増えていくのだ。

 これは、日本という国だけを見て、安定的にヒットを出すには有効な手法だろう。だが、中身を練ることはしにくくなり、つまらないドラマを量産する結果にもつながる。

 Netflixはそれをしない。というか、日本だけで配信するわけではないので、「日本で有名な誰々」という点を最優先にする必要がないのだ。もちろん知名度は重要だが、それだけで役が決まるわけではない。

 逆にいえばNetflixも、ハリウッドの知名度を生かした作品やバラエティなどでは、セレブリティの知名度優先の作り方をする。適材適所なのである。

 「全裸監督」が高く評価されるのは、日本のドラマが持つ閉塞感、別な言い方をすれば「手慣れた感じ」とは違う感覚を、見ている人が感じられるからに他ならない。他国でどこまでヒットするかはわからないが、日本人によっては、「日本のドラマ作りのルール外である」ことが心地いい。

 一方で、日本のドラマの中でも、深夜系のドラマでは面白いものが増えてきた。どれも予算規模は小さいが、ゴールデンタイムの予定調和感のない部分では、「全裸監督」と似たものを感じる作品もある。そうした作品は、Netflixなどの配信でも視聴量が多く、好調だという。テレビ東京やテレビ朝日がそうしたドラマ作りに長けている印象があるが、それは、「ゴールデンタイム・ドラマのルールに従ってもしょうがない」として、別のことを優先にしているからだろう。

 「全裸監督」主演の山田孝之氏は、そうした深夜ドラマにも積極的に出演し、「規模にこだわらない」と公言している。そう考えると、何かヒットの理由が見えてきた気がするのだが。

photo Netflixで視聴できる山田孝之出演作品。深夜枠では「勇者ヨシヒコ」シリーズがよく知られている
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