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世界で活躍するチャットbot 広がり続ける「自然言語処理」の可能性よくわかる人工知能の基礎知識(4/5 ページ)

» 2019年09月24日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

世界で活躍するチャットbot

 とはいえ、それは連載の第6回で触れた「強いAI」をめぐる議論と同じで、どんな状況でも人間の言葉を100%理解できるAIはそもそも必要かという疑問につながる。

 例えば私たちは、外国人と分かっている相手と日本語で話す際は、丁寧に話すはずだ。「ヤバい」のように曖昧な意味を持つ言葉は避けるだろう。それと同様に、皆さんがスマートスピーカーやSiriのような音声アシスタントに話しかける場合にも、はっきりとした発音で、簡潔で分かりやすい言葉を発しているのではないだろうか。

 家族や同級生並みに正確な理解をしてくれるAIが実現される前でも、ある程度の成果を達成するアプリが実現できると考えられる。実際、コミュニケーションの文脈を限定すれば、より理解の精度を上げられる。

 海外に観光旅行に行く際、小さな会話手帳を持っているだけで何とかなってしまうのは、「税関での会話」や「ホテルのフロントでの会話」など、特定の文脈で使われる表現が限られているためだ。したがって用途を限定したアプリであれば、現在の自然言語処理技術でも十分に人間とコミュニケーションできる可能性がある。

 そうしたアプリの好例が、いま流行しているチャットbotだ。「企業のサービス内容に関する質問ができるチャットbot」や「法律に関する質問ができるチャットbot」のように、特定の目的を達成するためのアプリが多数登場し、利用者は「〇〇について知りたい」や「〇〇はできないの?」のように、人間のオペレーターに対するのと同じ自然言語で問合せを行えるようになっている。

 例えば連載の第9回で触れた、スウェーデンの銀行SEBが導入した米IPSoft製のバーチャルエージェント「アメリア」も、用途を限定したチャットbotの例だ。他にも米Capital One Financialの「イーノ」や、米Bank of Americaの「エリカ」など、大手の金融機関でチャットbotが導入され、顧客からの問合せに対応するようになっている。

 こうしたチャットbotでは、スマートフォンのアプリとして提供されていたり、音声認識技術と組み合わせ、声でやり取りできるようになっていたりする場合も多い。

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米Bank of Americaの「エリカ」

 チャットbotが流行しているもう一つの要因は、SNSやメッセージアプリなど、私たちが普段使っているツールとの相性が良いことだ。多くの場合、そこではコミュニケーションがテキストに限定され、人間の側もテキストだけで完結するように配慮して発信する。実際、LINEのトークで渋々「YES」というメッセージを送り、それを相手が「NO」だと受け取ってくれなかったからといって怒り出す人はいないだろう。

 そのため独自のアプリを開発するのではなく、既存のSNSやメッセージアプリでチャットbotを提供している企業も多い。面白いところでは、最近話題となった日本テレビ系ドラマ「あなたの番です」において、劇中に登場するチャットbot「AI菜奈ちゃん」(登場人物の一人の思考をAIで再現したという設定)が、LINEのアカウントとして一般向けに提供される例があった。

 このアカウントにメッセージを送ると、その内容を解釈してAIが返信してくれる。顧客対応という実利的な目的だけでなく、エンターテイメントなどさまざまな形でチャットbotが活用される可能性を示すものといえるだろう。

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