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世界で活躍するチャットbot 広がり続ける「自然言語処理」の可能性よくわかる人工知能の基礎知識(5/5 ページ)

» 2019年09月24日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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AIが文書をレビュー 法律分野でも活躍

 もう一つ、自然言語処理の一般的な活用例として挙げられるのが、大量の文章の意味を把握するアプリである。先ほどテキストマイニングについて触れたが、顧客アンケートを分析して自社製品・サービスの反応を探る試みは、以前から行われてきた。AIによって自然言語処理が高度化したことで、そうした分析をさらに高度な形で行うことが可能になっているのである。

 例えば米Legal Robotは、法律分野の書類内容を把握してくれるAIを開発した。彼らはサービスの一つとして、「契約書分析」(Contract Analytics)を提供している。

 契約に関する文書は往々にして分かりづらく、気付かないうちに不利な契約を結ばされていたり、法務部による確認に長い時間を要してしまったりする。そこでLegal RobotのAIは、契約書を精査して、素人でも理解しやすい形に内容を整理してくれるのだ。

 さらにこのAIは、事前に膨大な法的文書を教師データとして与えられているため、対象となる文書に「異常」な所がないかを検出できる。例えば、普通では使われないような言葉があるかどうか、自分が過度にリスクを負う表現になっていないかなどだ。ユーザーはその分析結果を基に、適切な契約書になるよう相手と交渉していけば良い。

 さらに面白いのは、Legal Robotは米国の州や郡、市が公開する公的資料を読み込み、その中で疑いのある契約を抽出して、一般人でも精査できるよう結果を視覚化するAIの開発に取り組んでいる点だ。

 日本でも近年、政府と民間企業の間で、何らかの便宜が図られた疑いのある契約が結ばれる事件が起きているが、同様の事件は海外でも珍しくない。しかしそれを把握し、不正を摘発するためには、十分な法律知識を持った人物が膨大な資料を読み込まなければならない。それをAIに助けてもらおうというわけだ。

 当然ながら、人間がつくり上げた社会の中には、人間しか理解できない「自然言語」の形で存在している情報が大量にある。それを機械にも理解できるようにする自然言語処理技術が発展すれば、社会で何が起きているのか、消費者は何を考え、政府は何をしようとしているのかが、より可視化されやすくなる。その意味で自然言語処理は、一見するとささいな取り組みのように見えて、実際にはこれからの社会に大きなインパクトを与える可能性のある技術だといえる。

 さて、ここまで「機械に私たちの言葉を理解させる技術」について解説してきたが、冒頭で触れたような「ロボットが人間の言葉を即座に理解して、ウィットに富んだ受け答えをする」というシーンを実現するには、もう一ステップ必要だ。言うまでもなく、機械の側が自然言語やジェスチャー、表情など人間と同じ手段を使って、言いたいことを伝えるというステップである。これを機械に行わせる技術と、そこでのAI活用については、次回の「コンテンツ生成」で解説してみたい。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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