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より短く! 短時間化する「バズる動画コンテンツ」動画の世紀(2/2 ページ)

» 2019年10月01日 11時17分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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誰もが参加できるようになる=ますます短くなる

 映画のような長編コンテンツは別として、短編動画を長時間(といっても数分ですが)を見ていられるほどの集中力がなくなりつつあるから動画の長さが短くなっているのか、それとも短い動画をシェアするアプリが流行したことで、人々の集中力が下がりつつあるのか。この「鶏が先か卵が先か」という議論は脇に置くとして、動画が短くなっているもう1つの要因として、参加のハードルがますます下がりつつあることを指摘する声もあります。

 YouTubeなどの動画プラットフォームが登場したことで、私たち一般人にとっても動画コンテンツは非常に身近なものになりました。デジカメで数分間ペットの姿を撮影し、それをウェブサービスにアップすれば、すぐに立派なコンテンツとして流通を始めます。とはいえ数分間の長さを持つ映像コンテンツをつくって投稿しようとしたら、簡単な編集やキャプション、BGMの追加などが必要になります。どうせなら画質も良くしたい、という気分になる人もいるでしょう。それほど高くないとはいえ、そういった作業をするには手間暇やお金というハードルが立ちふさがるため、動画でコミュニケーションしようという人はまだ限られていました。

 しかしTikTokを始めとしたショート音楽動画共有アプリや、動画主体のコミュニケーションアプリでは、最初から長い動画を投稿する必要はありません。そもそも数十秒の動画しか投稿できないので、他人に気兼ねする、あるいは気後れするということもありません。またこれらのアプリでは、画像加工や音楽の追加もデフォルト機能として用意されていることが多く、スマホさえあれば他の多くの投稿と同じクオリティの作品を、誰でもつくることが可能。

 こうしてハードルが下がった結果、世の中に超短編コンテンツが爆発的に増えることになり、それがますます多くの人を集める、そして超短編コンテンツの世界でバイラルが生まれやすくなるという結果につながっていったというわけです。

 また最近、TikTokを運営する中国のBytedanceが、Jukedeckという英国のスタートアップを買収したとの報道が流れました。Jukedeckが開発しているのは、映像を解析し、それに合った音楽を自動的に生成してくれるAI。BytedanceはこのAIをTikTokと組み合わせ、BGMが流れる動画をさらに容易に作成できるようにするのではないかと考えられています。

 実はこうしたAIが簡単な楽曲を生成するというサービスは、boomyなど他にも存在するのですが、そうしたAIは、超短編コンテンツとの親和性が高いと指摘されています。確かにAIは近年急速に進化し、音楽だけでなく静止画や動画まで自動生成してくれるサービスが登場していますが、まだ長編のコンテンツを違和感なくまとめられるまでには至っていません。しかし短い曲であれば、キャッチーな旋律が1つあるだけでも問題ないでしょう。そのためAIによるコンテンツ制作のサポートは、短期的には短いコンテンツにとって追い風になると考えられています。

「超短編コンテンツ」というフォーマットに合わせた情報発信

 かつて(といっても私を含めて記憶が残っている人も多いと思いますが)各種コンテンツは、アナログメディアの上に記録されていました。そしてアナログメディアの容量が記録できるコンテンツの長さの限界となり、例えば12インチレコードであれば、記録できる音楽は片面で約20分間(回転数33rpmの場合)となっています。そのため音楽をつくり、そしてそれを大勢の人々に聞いてほしいと考える音楽関係者は、このフォーマットに合わせて曲を書いたり、編曲したりしていたわけです。

 デジタルの時代になり、こうした制限は実質的になくなったに等しいわけですが、そこに現れたのが前述のような「超短編コンテンツ」という流行。たった数秒という厳しい制限とはいえ、このフォーマットに合わせなければ自分たちのコンテンツをバズらせることも、そもそも大勢の人々の目に触れさせることもできません。そこでさまざまな企業や団体が、超短編フォーマットでのコンテンツづくりに取り組むようになっています。

 本連載の第5回で紹介した、マスメディアによるニュース配信の実験もそのひとつ。例えば米NBCは「Stay Tuned」というブランド名で、TikTok上でニュースを15秒に凝縮して配信していることを紹介しました。

 もうひとつ、最近日本で行われている面白い取り組みが、横浜市医療局とTikTokのコラボレーションです。彼らは9月29日から、乳がんのセルフチェックを啓発するキャンペーンを開始することを発表しています。

photo 横浜市の発表文

 これはTikTokの15秒コンテンツに載せ、「#胸キュンチェック」というハッシュタグをつけ、乳がんのチェックを呼び掛ける映像を発信するというもの。TikTok上で約37万人のフォロワーを持つ、サラ・コールディさんも参加し、「お手本」となるダンスを披露しています

 この動画やキャンペーン全体がどこまで「バズる」かは分かりませんが、少なくともアナログなパンフレットを市役所の窓口に置いておく、というよりは情報の拡散が期待できるでしょう。

 ニュースなどの重要度の高いコンテンツを、こうしたショート音楽動画共有アプリに載せて提供する取り組みは、まだまだ奇妙なものに感じられるかもしれません。しかしその出発点がどうであれ、大勢のユーザーの注目を集めているサービスやアプリケーションにおいて、その中で使用されるコンテンツのフォーマットに合わせてさまざまな情報がやり取りされるようになるのは、自然な流れと言えるでしょう。YouTubeですら、立ち上げ当初は出会い系サイトのプロフィール紹介機能として使われることを想定していたのが、ここまで巨大な情報インフラに成長したのですから。

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