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東芝の“量子インスパイア”な高速金融取引マシン、展示会で人だかり 最良取引をマイクロ秒で検知(2/3 ページ)

» 2019年10月30日 07時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 既存の高速取引アルゴリズムに対する優位性は、多数の通貨ペアを扱えることだ。

 「3通貨程度の監視であれば、ナノ秒で検出するアルゴリズムもあるかもしれない。しかしわれわれのマシンは8通貨を扱えるし、より多くの通貨も同時に計算できる。これまで注目されてこなかった通貨ペアの取引機会を高速に見つけられる」(同)

 東芝はマシンの実用化に向けて外部企業と協業する考えだが、同じ市場に同じマシンが複数台あると利益を食い合うため、「多国間通貨取引などの各モデルケースで協業するのは1社のみ」としている。

10の486乗から最適な組み合わせ クラウドGPU上に大規模実装

 SBは単なるアルゴリズムであるため、並列処理が得意なハードウェアであれば種類を問わず搭載できる。東芝は、FPGAに載りきらない大規模な問題のPoCとして、TOPIXの約2000銘柄から500銘柄を選び、保有株数を調整することでTOPIXの値動きを追従するポートフォリオを作成するGPUマシンを「Amazon Web Services」(AWS)上に実装した。

TOPIXの2000銘柄を500銘柄でトレース

 このPoCを担当する東芝デジタルソリューションズの岩崎元一参事(新規事業開発室)は、「2000銘柄から500銘柄を選ぶ組み合わせは10の486乗通り。さらに保有株数の選択もあるため、組み合わせ数はほぼ無限だ」と語る。

 運用はこうだ。過去3年間のTOPIXデータをクラウドGPUで計算し、ポートフォリオを作成。「1カ月間であれば過去3年間から値動きの大幅なかい離は起きない」という仮定の下、同ポートフォリオで1カ月間の運用を行い、また過去3年間のデータからポートフォリオを再作成する──というサイクルを繰り返す。

サイクル制約条件 ポートフォリオの作成サイクル(左)、ポートフォリオ作成時の制約条件の一部(右)

 毎月作成したポートフォリオの運用を2年間行ったときのバックテストでは、追従エラー率が約0.2%だったという。

 「TOPIXに対しある程度の追従性は得られた。ポートフォリオ作成の実運用に向けて、協業先を探したい」(岩崎参事)と語った。

もうかるなら、なぜ公開?

 東芝は多国間通貨取引のFPGAマシンを10月17日に発表。NHKなど各メディアに取り上げられ話題になり、多くの金融機関から問い合わせがあったという。しかし、「もうかるというならなぜ公開するのか」「自社運用しないのはもうからないからでは」などの意見も寄せられたという。

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