11月18日に開かれたZホールディングス(ZHD)とLINEの経営統合に関する会見では、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ」というキャッチフレーズが使われた。ヤフーを傘下に持つZホールディングスの川邊健太郎社長からも、「アメリカや中国のテックジャイアントではない、第三極を目指す」という言葉があった。
では、具体的に彼らはAIの分野で何をしようとしているのか? 今のステータスは「経営統合が決まっただけ」の段階で、詳細は表に出ていない。この段階で完全な予想をするのは難しいだろう。
だが、両社の持っているリソースなどから「方向感」は分かる。そこで、「AI」という目線でヤフーとLINEが何をしようとしているのかを考察してみたい。
ヤフーとLINE、どちらにも共通している特徴は「親会社がAIを軸としたビジネスを推進している」ことだ。
ソフトバンクグループは、孫正義会長がことあるごとに「AI群戦略」というキーワードを出すから分かりやすいだろう。事業によっては「これのどこにAIが」と思うものもあるが、中国のタクシー配車DiDiやディープラーニングのための基盤LSIを支える米NVIDIA(2月に売却済み)、英Armといった企業は、確かに誰もが認める「AIを主軸とした企業」だ。PayPayのようなサービスでも、集積されたデータはAIに生かせる。LINEの場合には、親会社である韓国NAVERがAI関連の研究所を持っており、特に文字認識AIやBotの開発などに力を入れている。
こうした基盤をグループ企業として活用できることは、確かに有望である。
だが、何よりも大きいのは、グループ会社としてでなく、ヤフーとLINEそれぞれが単独でもデータ活用とAIに積極的な企業であることだろう。
ヤフーは検索サービスを軸に、大量の行動データを既に得ている。現在ヤフーが使っている検索エンジンのコアはGoogleのものだが、使っているのはあくまでエンジンなので、自社内に大量のデータが蓄積されている。AIが注目される以前、まだ「ビッグデータ」といわれていた頃から、同社はデータ活用に積極的だった。検索から生み出される傾向分析を活用すると、どのようなことができるかは、2012年12月から18年9月まで公開されていた「Yahoo! JAPANビッグデータレポート」を読むと良く分かる。
ヤフーには、集まった実データを解析し、新しいサービスを生み出すための「砂場」と呼ばれるものがあり、砂場で、仮説に基づいた解析や開発を試した上で、新サービスを実装している。そうした環境を整えていることこそが、一つの差別化ポイントだ。
一方のLINEは、NAVERと共同で積極的に音声アシスタント技術「Clova」を開発している。音声アシスタントとしてはAmazonの「Alexa」やGoogleの「Googleアシスタント」ほどの支持を得られてない状況だが、日本独自の音声アシスタントとして地道に開発を進めている。
ビジネス向けとしては、レストランの予約に関する自動応答技術「LINE AiCall」を開発し、11月20日に「俺のGrill&Bakery 大手町」で実証実験を開始した。日本語での電話応答に関する音声認識精度向上のために、IP電話サービス「DialPad」とも提携している。
「現状存在しないサービスをいかに開発するか」という観点に基づき、これらの点を両社が積極的に展開している。先日の会見でも「両社でまだまだ多数の課題解決ができるはずだが、果たせていない」(ZHD・川邊健太郎社長)「急速に変化する状況に対する危機感が強い」(LINE・出澤剛社長)というコメントがあった。
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