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2021年、われわれは“完全ワイヤレスiPhone”を使えるのか

» 2019年12月10日 11時42分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 完全ワイヤレスイヤフォンの次にくるのは、完全ワイヤレスアイフォン——TF International Securitiesのアナリストであるミン=チー・クオ氏は、Appleが2021年に「iPhone SE 2 Plus」で「完全なワイヤレス体験」を提供すると予想。Lightningコネクターを排除する可能性を指摘しました(関連記事)。

 記事では詳しく触れていませんが、ミン=チー・クオ氏のいう「完全なワイヤレス体験」には、マイクロ波などを使った空間伝送型の新しいワイヤレス充電技術を想定していると思います。空間伝送型は、数メートル先のデバイスにワイヤレス給電が行えるため、例えば送信機を置いた部屋の中なら普段通りにiPhoneを使いながら充電できます。

2017年発売のiPhone 8とiPhone 8 Plus。背面がガラス素材になりQi充電器に対応した

 実は2016年の秋ごろにも同様のうわさがありました。当時はiPhone 8(とサプライズで登場したiPhone X)の発表前。「次期iPhoneは最大5メートル離れても充電できるワイヤレス充電機能を搭載する」という内容で、米Energousのワイヤレス給電技術「WattUp」と予想する声が多かったのです。これには15年にEnergousが「最大のコンシューマーエレクトロニクス企業と提携した」という微妙な言い回しの発表をしたことも手伝いました。さらに16年12月、Energousが、パワーマネジメント用の半導体などを手掛ける米Dialog Semiconductorと提携したときも同じことがいわれています。DialogがiPhoneの電源管理部品を供給するサプライヤーだったからです。

 しかし、ご存じの通り17年秋に発売されたiPhone XとiPhone 8には近接結合型ワイヤレス充電技術の「Qi」(チー)が採用されました。これに首を傾げた人は少なくないはず。iPhone Xユーザーの一人として言わせてもらうと、現在のQiはかなり不便です。線(ワイヤー)がないだけで充電場所は固定され、置く位置がちょっとずれるだけで充電が始まりません。新しい「体験」を重視し、そのためにレガシーをばっさりと切り捨てるAppleが目指すワイヤレス充電とは考えにくいでしょう。

 その後、空間伝送型のワイヤレス技術を巡る状況も変わりました。17年12月、Energousは920MHz帯でFCC(米国連邦通信委員会)の認可を取得。19年にはOasis-RCというメーカーがWattUp対応のPSAP(Personal Sound Amplification Product:集音器)を発売するなど実用化が進んでいます。

EnergousのWattUp技術を採用したOasis-RCのPSAP

 一方、19年6月には米Ossia(オシア)の「Cota」というワイヤレス電力伝送技術もFCCの認可を取得しました。Cotaは2.4GHz帯を使い、1〜2メートル離れた場所にあるスマートフォンなどへ最大1ワットの給電を可能にするというもの。20年からライセンス供与を開始する見込みで、5.8GHz帯のトランスミッターも開発しています。こうした技術の進展が、ミン=チー・クオ氏の予想に反映されているのではないでしょうか。

 気になるのは日本の状況です。空間伝送方式はマイクロ波などの電波を飛ばすため、無線設備という扱い。以前は電波法にワイヤレス給電に関する記述がなく、Appleのうわさが立ったときも「実用化には制度面の対応が不可欠」と言われていました。

 今はどうかというと、BWF(ブロードバンドワイヤレスフォーラム:総務省、電波政策懇談会の報告を受けて設立)やWiPoT(ワイヤレス電力伝送実用化コンソーシアム)といった業界団体を中心に仕様を検討している段階です。日本では工場などビジネス需要をメインに考えているようですが、例えばBWFにはOssiaや同社に出資しているKDDIも参加していますので、おそらく海外の技術も想定した形になるでしょう。

 周波数帯は、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯を検討中。屋内が前提となりますが、ロードマップ上は2020年度に「商用化開始の見込み」です。つまり、完全ワイヤレスiPhoneが登場する頃、日本でも使う環境が整っていると期待されます。もっとも、全てはミン=チー・クオ氏の予想が当たれば、の話ですが。

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