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大きさが左右で変わって見える、不思議な「ポンゾ錯視」 見つけたのは“ポンゾさん”ではない?コンピュータで“錯視”の謎に迫る(2/4 ページ)

» 2019年12月13日 07時00分 公開
[新井仁之ITmedia]

ポンゾ錯視の源流をたどる

 まずはポンゾ氏の原論文(1912年)を調べることから始めました。それで分かったことは、ポンゾ氏は確かに論文中に図1の錯視を載せて言及しているのですが、自分が発見した錯視だとは一言も書いていないということです。むしろ次のように書いています。

 『下の図(図1のこと)に再現された錯視はすでに知られているもので(2)、対比錯視の部類に属す。』([P]より、筆者訳)

 ここで出た(2)というのは、スタンフォードという人が1900年に出版したフランス語の本 [S](『実験心理学コース(感覚と知覚)』、筆者訳)を指す文献番号です。このようにポンゾ氏は図1の出典も明記しているのです。

 つまり、ポンゾ錯視という名前が付いた責任はポンゾ自身にはないのです。もしも図1の錯視がポンゾ錯視と呼ばれていることをポンゾ自身が知ったら、その呼び方は適切ではないと主張したに違いないでしょう。

 さて、引用元のスタンフォード氏の本ですが、これは100年以上も前に出版されたものです。しかし、幸いにも東京大学の図書館に所蔵されていて、実際に見ることができました。約500ページもある大著で、数々の挿絵も載っている面白そうな教科書です。いろいろと読んでみたいところもありましたが、取りあえず該当箇所を探してみると、確かに次のような図が載っていました。

photo 図3 スタンフォード氏の本([S])にある図を元に描画したもの

 図3のAはポンゾの論文に載っていたものと同じ図形です。これ以外に図3のBもありました。図3のBは左の縦線よりも右の縦線の方が長く見えるという錯視画像です。本記事では便宜上、図3Aを円型ポンゾ錯視、図3Bを線分型ポンゾ錯視と区別して呼ぶことにします。

 ところで、スタンフォード氏の本([S])を読むと、実はこの2つの錯視には、更に元ネタがあることが分かりました。[S]には円型ポンゾ錯視の出典として、ホルツ氏の1893年のドイツ語の論文([H])、そして線分型ポンゾ錯視の出典としてティエリー氏の1895年のドイツ語の論文([T])が記載されていました。どちらもリップス氏の本(1897年)より古い年代のものです。

 そこで更にさかのぼって、この二つの論文を調べることにしました。そうしたところ、ポンゾ錯視のルーツには、(少なくとも筆者にとって)意外な事実が隠されていることが分かりました。

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